「ゾウはいません」と掲げる動物園が、閉園危機から復活できた理由:“動物の幸せ”が集客に(3/4 ページ)
地域産業の衰退とともに閉園危機にあえいでいた動物園の“復活”が注目されている。福岡県の大牟田市動物園だ。「ゾウはいません」と掲げ、大規模改修もしていない同園に人が集まる理由は、職員の「知恵」と、動物への「愛情」だった。
モルモット「触れ合いイベント」に隠れた意図
実際にモルモットの様子を見せてもらった。同園では、子どもの触れ合い体験を1回90人限定(1組5分×6組)で、1日2回行っている。ここまでは他の地域と同じだが、大牟田市動物園の場合はモルモットにストレスをなるべく与えないようにしている。
例えば、子どもとのイベントゾーンと居住スペースに長さ数メートルの木製の橋を架け、無邪気な天使たちと一緒に過ごしてもいいという殊勝なモルモットだけが渡ってくるという仕組みにしている。新鮮なキャベツで誘導しているものの、もともといた居住スペースにも餌は豊富に置いてある。
好奇心旺盛なモルモットは、橋を渡って、イベントゾーンにやってくる。この方法だと、一部の「働かない」モルモットが出てしまうが、それも個性だと割り切っている。
体重測定も1匹1匹捕まえて行うのではなく、イベントゾーンにある通路の下に設置した体重計の上を通過することで測れるようにしている。これもハズバンダリートレーニングと同じ発想だ。普段の行動の中でさりげなく行うことで省力化と飼育動物への負荷軽減を図っている。
ストレスの少ない環境で育っているせいか、他の動物園のモルモットよりも毛並みがつややかで、生き生きとしている気がした。こうした飼育方法を説明し、体験してもらうことで、子どもたちが相手の気持ちを察して、自分がどう行動するべきかを考えるきっかけにもなるという。なお、このイベントは他園と同様に人気で、この日も長蛇の列ができていた。
キリンとの触れ合いイベントも人気だ。キリンの頭と同じ高さの台に子どもたちに登ってもらうことで、直接首筋をなでることができる。
なお、このイベントはキリンが離れたら終わる。無理をさせないのが、訓練を長続きさせるためのコツだという。同園ではこうしたハズバンダリートレーニングを「動物に協力してもらう」と表現する。動物福祉を追い求めた結果であるにもかかわらず、それが人気の「イベント」になるという良い意味での逆転現象が起きている。
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