「ゾウはいません」と掲げる動物園が、閉園危機から復活できた理由:“動物の幸せ”が集客に(4/4 ページ)
地域産業の衰退とともに閉園危機にあえいでいた動物園の“復活”が注目されている。福岡県の大牟田市動物園だ。「ゾウはいません」と掲げ、大規模改修もしていない同園に人が集まる理由は、職員の「知恵」と、動物への「愛情」だった。
人気の「跳ぶライオン」は“ショー”ではない
動物が生活する獣舎の環境を良くしたり、餌の与え方を工夫したりする「環境エンリッチメント」(飼育環境の充実)の試みも、一種のイベントとして入園者に好評だ。
同園で人気の「ライオンの肉探し」では、体重約180キロの雄ライオン「あさひ」が高さ数メートルの丸太を駆け上り、先端に置かれた肉にかぶりつく。この日も肉を目掛けて軽やかに跳躍する姿に、100人を超える人だかりから「おー」と、大きな歓声が上がっていた。砂を掘ったり、辺りを見渡したりして、獣舎の中でいそいそと肉を探し回る姿に、子どもたちは身を乗り出して見入っている。寝てばかりいる印象の強いライオンだが、ネコ科の面目躍如といった様子。
なお、肉探しは、運動不足の解消や生活の質の向上を目的として毎日行っているものをイベント化したものだ。
レッサーパンダの飼育室も、もともとは殺風景なコンクリート製の四角い部屋だったが、職員が自分たちで丸太を組み上げて、隠れ場所や遊び場所を用意した。ボルダリング用のホールドを配置した壁を設置し、昇り降りできるようにしたところ、よく遊ぶようになったという。
ヤマアラシの部屋は、隣の獣舎の壁を一部ぶち抜き、連結した。昭和の動物園を感じさせる、コンクリート製の壁に鉄格子が取り付けられただけの殺風景な獣舎だが、多少広々とした感じだ。
他の動物に関しても、地元の漁業者から分けてもらったブイを遊び道具にしたり、古くなった消防ホースを編み込んでつり下げ、よじ登れるようにしたりするなど、予算を掛けずに安心して暮らせる獣舎づくりを試みている。それが入園者の目を楽しませているのだ。
職員の創意工夫でやりくりしている大牟田市動物園だが、自治体の管理下にあるため、財政面や土地の利用方法など制約は数限りない。「職員の努力にも限界があるのでは」。同園の広報責任者で飼育員でもある冨澤奏子さんに聞いてみた。「まだまだ、お金をかけなくても動物のためにやれることはありますよ」と答えてくれた冨澤さんは、目を細めながら、静かにほほえんでいた。
次回の後編では、園長インタビューをもとに、大牟田市動物園の取り組みをさらに深掘りする。
著者プロフィール
甲斐誠(かい・まこと)
1980年、東京都生まれ。現役の記者として、官公庁や地域活性化、文化芸術関連をテーマに取材、執筆を重ねている。中部・九州地方での勤務経験あり。
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