展示と“幸せ”は両立するか V字回復した動物園が向き合い続ける「矛盾」:園長に聞く(2/4 ページ)
閉園危機から復活し、注目されている大牟田市動物園。動物の生活の質を高める取り組みを強化し、動物を取り巻く社会問題について広く発信している。一方で、そこに潜む“矛盾”とも向き合い続ける。動物園の在り方について、園長にインタビューした。
「もうゾウは飼いません」園長インタビュー
こうした先端的な取り組みと発想で全国の注目を浴びる大牟田市動物園の課題や今後の展望について、椎原園長に詳しく聞いてみた。
――まず、園長のこれまでの歩みを教えていただけますか。
椎原園長: 鹿児島県で1959年に生まれました。鹿児島大で生物学を学んだ後、国営「海の中道海浜公園」(福岡市)で飼育員として働き、鹿児島県の民間動物園で園長を務めました。2006年に大牟田市動物園の飼育員兼副園長に就任し、07年から園長をしています。
――「ゾウはいません」という立て看板も注目されています。なぜ、わざわざ書いたのですか。
椎原園長: ゾウは群れで飼育すべき生き物ですが、ここには何頭も飼えるだけの施設がありません。園長になった時に「動物福祉を伝える動物園」を目標としていたので、ゾウの生活の質を現状以上に高められるような環境を用意できないなら、飼育しない方がいいと考えました。(以前飼育していたゾウの)はなこが倒れる数年前から、周囲にも「もうゾウは飼いませんよ」と言い続けていたのに、死んで数カ月後にはもう「次のゾウはいつ来るのか」という問い合わせを受けるようになったので、ちゃんと説明しようと思って、立て看板を置くようにしました。
――大牟田市動物園がV字回復した理由は何だと考えていますか。
椎原園長: この動物園で目指してきたことが、世の中の流れと同じ方向になってきたことがあると思います。また、市民向けの発信を強め、説明などを充実させて、分かりやすくしたこと。ハズバンダリートレーニングや環境エンリッチメントなど、飼育員の取り組みを来園者の方と一緒に考えるイベントなどを企画したことが理由だと思います。
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