展示と“幸せ”は両立するか V字回復した動物園が向き合い続ける「矛盾」:園長に聞く(3/4 ページ)
閉園危機から復活し、注目されている大牟田市動物園。動物の生活の質を高める取り組みを強化し、動物を取り巻く社会問題について広く発信している。一方で、そこに潜む“矛盾”とも向き合い続ける。動物園の在り方について、園長にインタビューした。
「動物園として社会の矛盾と向き合いたい」
――ハズバンダリートレーニングとは? どのように実施しているのですか。
椎原園長: 体重測定、検温、血圧測定、採血、エコーやレントゲン、口腔内のチェックなどがしやすい体勢を普段から動物に覚え込ませる訓練などのことです。動物の健康診断は、健康状態を把握し、健康を維持し、病気の早期発見に役立ちます。また、けがや病気の時に、押さえつけたり麻酔をしたりせずに動物に注射などをすることが可能になります。例えばトラに注射をする場合は、特定の場所にとどまらせることから始めます。次に、採血部位である尾をケージの外に出し、慣れてきたら、最初は指で押し、次に竹串を用いて刺激をし、少しずつ刺激を大きくしていきます。そして、最後に針を刺します。
はじめは毎日訓練をすることが望ましいのですが、学習後は多少の間隔があいても、動物は忘れずにいてくれます。現在は月1回実際に採血をしています。ただ、動物にも個性があるので、同じ種の動物でも「この子はこの方法でできたから、あの子も同じ方法でできるのでは」といったように、飼育員が過去のトレーニング方法に固執せず、1頭1頭の状況に合わせたトレーニングを行うように気を付けてもらっています。
――ハズバンダリートレーニングなどが行えるよう、どのような飼育体制をとっていますか。
椎原園長: 当園ではチーム制をとっていて、1頭1頭を複数の飼育員でケアしています。飼育員は11人で、獣医師が2人です。だから、飼育員1人当たり10数種の面倒を見ている計算になります。それでも十数年前に比べると、頭数も種類も半減しました。繁殖を抑え、新たな動物種の導入も控えることで、飼育頭数を削減。職員の仕事の量が減り、その分を環境エンリッチメントやハズバンダリートレーニング、説明の看板作りの時間に充てられるようにしました。
――動物園の環境は、動物にとってベストではないというお考えなのでしょうか。
椎原園長: 人間は動物を利用して発展してきました。例えば、家畜や愛玩動物などがそうですよね。動物園も同じです。野生動物は本来自然の環境で暮らしています。動物園では展示という形で人々の多様な好奇心を満たすために、動物を利用している。一方で、動物の生活の質も向上させていかないといけない。その矛盾と向き合い続けることが大切だと思っています。環境エンリッチメントやハズバンダリートレーニングをやっていますが、まだまだ動物にとってベストな状態ではないので、質を上げるために一層取り組んでいかないといけません。
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