展示と“幸せ”は両立するか V字回復した動物園が向き合い続ける「矛盾」:園長に聞く(4/4 ページ)
閉園危機から復活し、注目されている大牟田市動物園。動物の生活の質を高める取り組みを強化し、動物を取り巻く社会問題について広く発信している。一方で、そこに潜む“矛盾”とも向き合い続ける。動物園の在り方について、園長にインタビューした。
「安心できる居場所」が必要なのは動物も同じ
――なぜ、動物福祉を心掛けるようになったのですか。
椎原園長: 自分が飼育員になった頃は、欧米でアニマルウェルフェア(動物福祉)やアニマルライト(動物の権利)といった言葉が盛んに言われ出した頃で、ズーチェック(動物園調査)が吹き荒れた時代でもありました。多感な20代の頃にそうした刺激を受けたことが影響したのかもしれません。いまでもインターネットなどを通して、動物福祉の分野などで先進的な海外の動物園の事例をよく調べたりするのは、その名残だと思います。
――モルモットの触れ合いイベントでは、子どもが動物に触れるイベントゾーンと居住スペースを分けるなど、苦労して改善した形跡がありますね。
椎原園長: 誰だって逃げることができないのは苦痛です。モルモットも同じでしょうし、安心できる居場所を作って、ストレスを抑えられるようにしています。また、必要な行動ができないのは苦痛です。欲求不満が募るので、種本来の正常な行動ができる環境を提供できるようにしたいです。怖いことや嫌なことが起きると、動物は逃げたり、動けなくなったりするほかに、戦うという選択肢をとることもあります。人にかみつく危険性を減らす意味でも、効果があると思っています。お客さんにも考えてもらって、展示を改善してきました。
――これから、何か新しくやろうと考えていることはありますか。
椎原園長: 駐車場の整備と、動物の飼育展示施設のリニューアルです。やはり昔ながらの施設なので。動物福祉を考えた施設に変えていきたいです。
――小規模自治体の動物園として、地域貢献も一つの課題とされています。
椎原園長: 障がい者や引きこもりの方、認知症の方などのケア事業者と連携できるパートナーになり、地域社会にとって役立つイベントを計画していきたいと考えています。また、それが地域社会の活性化につながれば、とも思います。市からの一定の財政支出に対して、市民の皆さんの理解が得られるよう、取り組んでいきたいと思っています。
独自の取り組み、映画化へ
現在は順調に見える大牟田市動物園だが、入園者の減少で閉園が真剣に議論されていた時期がある。国も自治体も財政難が叫ばれて久しい時勢の中、人口10万人余りの市が単独で動物園を維持存続させるのは、現状でも極めて厳しい。閉園を回避し、何とか支えているのは市民からの根強い応援があるからだ。
こうした大牟田市動物園のV字回復劇が全国的に注目を浴びたことから、映画化の動きも出ている。「いのちスケッチ」というタイトルで、準備作業が既に始まっている。年内にも公開する方向だ。映画化を支援している大牟田商工会議所の奥園征裕専務理事は「市の人口は減少し続けているが、何とか減少に歯止めをかけ、住民が誇りを持って語れるような街になるよう、動物園を起点に地域活性化の機運を盛り上げていきたい」と話した。
著者プロフィール
甲斐誠(かい・まこと)
1980年、東京都生まれ。現役の記者として、官公庁や地域活性化、文化芸術関連をテーマに取材、執筆を重ねている。中部・九州地方での勤務経験あり。
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