自動車メーカー各社の中国戦略:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)
いまや世界で1年間に販売される新車の3分の1近くが中国での販売となっている。魅力的なマーケットである一方で、中国というカントリーリスクも潜んでいる。今回は日本の自動車メーカーが中国にどんな対応を取るか、その戦略差を比べてみたい。
トヨタの場合
トヨタ自動車は18年から中国生産に力を入れる発表をした。当初さまざまな危惧(きぐ)が脳裏をかすめた筆者は、機会があるごとにトヨタ幹部にその真意を尋ねてきた。そこで見えてきた絵図が面白い。
第一に、トヨタは17年の秋、バッテリーのパートナーとしてパナソニックを指名した。それによって11年後の30年時点の達成目標として、EVとFCV(燃料電池車)を100万台、HV(ハイブリッド)を450万台、つまり電動車を合わせて550万台まで増やすとしている。これはトヨタの年間生産台数1000万台の過半を電動化車両に切り替えるという発表だ。
しかもHVに対してEVは50倍近い容量のバッテリーを必要とする。先ほど述べた100万台はほとんど全てがEVになるであろうことを勘案すれば、HVに換算して5000万台分という途方もない量のバッテリーが必要になる。当然、本当にそれだけのバッテリーをパナソニックが供給できるのかについては、疑問の余地があるのだ。
加えて中国進出だ。現在の中国国内政策が継続されることを前提にすれば、最低限でもHV、可能ならEVを駒にそろえなければならない。パナソニックをパートナーに指名したトヨタに中国政府が国外調達バッテリーの使用を許すとは考えにくい。一体どうするつもりなのか?
トヨタ幹部によれば、やはりパナソニックだけでそれが供給できるかどうかは、まだ確定的には言えないらしい。さすがにここから先の質問には答えてもらえなかったが、筆者がその行間を補完すれば、中国で売るクルマに関してのみ、中国製のバッテリーを搭載するのではないかと考えられる。というより、それ以外の落ち着きどころは見当が付かない。
つまりこういうストーリーだ。トヨタはグローバルなバッテリー供給を中国に完全に握らせないためにバッテリーのパートナーとしてパナソニックをメインに据える。しかし、それで供給が不足するリスクを補う意図を持って、中国のごり押しを飲んでみせたのではないか? 負けたふりをしつつ、実は調達の問題解決をやり遂げてみせたのではないか?
他社と比べて見ても、トヨタは圧倒的に周到だ。他が真似しようにもまず圧倒的な生産台数があること、そして中国以外の各国でバッテリーを搭載するHVがビジネスとしてしっかり成立しているいことが強みになっている。でなければバッテリーの調達を2ルートにしつつバイイングパワーを維持できない。
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