女子向けワイン酒場「ディプント」をヒットさせたプロントの“緻密な戦略”:強さを数字で読み解く(4/5 ページ)
プロントが運営する女性向けワイン酒場「ディプント」。2009年に1号店をオープンしてから40店舗近くまで増えた。ヒットの要因と強さの秘密を解き明かしていく。
収益性を高めるための戦略転換
それでは次に、ビジネスモデルについてより詳細に分析していきましょう。プロントとディプントの収益モデルを比較していきます。
両業態の償却前利益を比較するとディプントの方がプロントより3%高いことが分かります。その要因をさらに細かく分析するために、飲食店において重要な経営指標である「FL比率」を見ていきます。FはFood costの頭文字で売上原価(食材費)という意味になります。LはLabor costの頭文字で人件費を意味します。つまり、FL比率とは原価率+人件費率の合計です。
FL比率を分析していくと、ディプントの方がプロントよりも人件費率が3%程度高いことが分かります。これは、プロントが対面式のセルフサービス業態(夜はフルサービス)であるのに対し、ディプントはフルサービスを行っていることに起因しています。その一方で、売上原価に関してはプロントよりも3%低く運営できています。これによりFL比率は両店とも60%に抑えられています。つまり、フルサービスを行うことによって増加した人件費コストを、売上原価で吸収できているのです。これは戦略的なメニュー設計がないと実現しません。ただ、トータルのFL比率を見る限りはディプントの優位性は見えてきません。そこで次に家賃比率を見ていきます。
家賃比率はディプントが12%、ディプントが8%となっています。ディプントはプロントよりも4%も低いことが分かります。この要因は業態のモデル坪数に起因しています。両業態のフランチャイズ募集資料からモデル坪数を見ていくと、プロントのモデル坪数は40坪なのに対して、ディプントのモデル坪数は25坪となっています。つまり、ディプントの方が狭い面積で営業できるのです。当然ながら賃料は面積に比例して高くなりますので、面積が小さければ家賃を抑えることが可能です。
一方、面積が小さくなると売り上げも少なくなるかというと、一概にはそうとは言えません。同じく両モデル月商を確認していくと、プロントは月商900万円、ディプントは同800万円となっています。一見するとディプントの方が月商は100万円ほど低くなっていますが、売り場の生産性の指標である坪効率(1カ月の売上高÷売り場面積〈坪〉)で見ていくと次のようになります。
プロントの坪効率(1カ月の1坪当りの売り上げ)は22万5000円であるのに対して、ディプントの坪効率は32万円であり、ディプントの方が生産性が高い業態であることが分かります。
関連記事
- 家賃が200万円もするのにスタバがもうかる理由
スタバは大都市の一等地に多くの店舗を構えている。1杯数百円のコーヒーを販売しており、店に長居するお客も多い。家賃が200万円以上するような場所でも利益が出せる秘密とは? - 「回転しない寿司」路線から6年 元気寿司が思い知った“意外な効果”
大手すしチェーンの元気寿司が「脱・回転」路線を打ち出している。回転レーンをやめて、注文された商品のみを特急レーンで提供。国内の152店のうち122店を「脱・回転」させた結果、思わぬ効果が生まれた。 - 低迷していた「カルピス」が、右肩上がりの再成長を遂げた理由
2019年に100周年を迎える「カルピス」がいま、再び成長している。販売量は横ばいで推移していたのに、10年ほど前から右肩上がりに伸びているのだ。変わらない味のロングセラーブランドが再成長できたのはなぜだろうか。 - 最大11時間飲み放題の「バー」が、じわじわ増えている秘密
若者を中心に、人気を集めているバーがある。店名は「The Public Stand」(通称:パブスタ)。最大11時間飲み放題で、価格は男性3240円、女性は1080円。この安さがウケているわけだが、採算はとれているのだろうか。パブスタを立ち上げた、担当者に話を聞いたところ……。 - 清算された「ハブ」が、過去最高を更新している秘密
「英国風パブ HUB」を運営しているハブの業績が好調である。2017年2月期の売上高は過去最高、18期連続で増収だ。かつて売上低迷で事業清算されたハブが、なぜ復活したのか。その理由について、同社の太田社長に話を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.