女子向けワイン酒場「ディプント」をヒットさせたプロントの“緻密な戦略”:強さを数字で読み解く(5/5 ページ)
プロントが運営する女性向けワイン酒場「ディプント」。2009年に1号店をオープンしてから40店舗近くまで増えた。ヒットの要因と強さの秘密を解き明かしていく。
ディプントの方が生産性が高い理由
では、なぜ坪数が狭いディプントの方が生産性が高いのか? それは客単価にも起因しています。飲食店の売上高は次の公式で表されます。
売上高=客数×客単価
ここで両業態の客単価を見ていきます。
プロント業態の客単価は昼が400円、夜が1500円程度となります。昼と夜の客数構成比は立地によって大きく変わりますが、仮に昼85%、夜15%とすると昼夜を合わせた平均客単価は565円となります。計算式は(昼客単価×昼客数構成比)+(夜客単価×夜客数構成比)です。
一方でディプントのディナー営業のみ店舗の客単価は3200円程度となります。この客単価を逆にモデル月商から割り戻すと必要な客数が見えてきます。
売上高÷客単価=客数
計算を行うとプロントの月間客数は約1万6000人、ディプントは2500人となります。もちろん、業態が全く違いますので一概に比較はできませんが、一つのビジネスモデルとして考えた場合にディプントはプロントの6分の1程度の客数で成立することになります。
また、坪数が少ないため、内装費などの設備投資費用も抑えることができます。実際に両店の設備投資金額を比べてみます。
プロントの設備投資が3750万円であるのに対し、ディプントは3000万円と750万円も低いことが分かります。先ほど「償却前利益はディプントの方がプロントよりも3%高い」と述べましたが、設備の減価償却を加味した後の営業利益に関しても、設備投資金額が低いぶんディプントがさらに高くなります(同条件で減価償却を行った場合)。
ここまでで、ディプントがいかに効率性を意識した店舗戦略を行っているかがお分かりになったかと思います。ディプントは収益性の追求だけではなく、ターゲットを明確化した上で、ターゲットが求めている専門店としてのマーケティング戦略を分析研究しています。さらに、その業態モデルを内装やメニュー上で緻密に表現することで戦略転換に成功したのです。
著者プロフィール
三ツ井創太郎
株式会社スリーウェルマネジメント代表取締役。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとして中小企業から大手上場外食チェーンまで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。代表コンサルタントとして日本全国の飲食企業に経営支援を行う傍ら、日本フードビジネス経営協会の理事長として店長、幹部育成なども行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。
関連記事
- 家賃が200万円もするのにスタバがもうかる理由
スタバは大都市の一等地に多くの店舗を構えている。1杯数百円のコーヒーを販売しており、店に長居するお客も多い。家賃が200万円以上するような場所でも利益が出せる秘密とは? - 「回転しない寿司」路線から6年 元気寿司が思い知った“意外な効果”
大手すしチェーンの元気寿司が「脱・回転」路線を打ち出している。回転レーンをやめて、注文された商品のみを特急レーンで提供。国内の152店のうち122店を「脱・回転」させた結果、思わぬ効果が生まれた。 - 低迷していた「カルピス」が、右肩上がりの再成長を遂げた理由
2019年に100周年を迎える「カルピス」がいま、再び成長している。販売量は横ばいで推移していたのに、10年ほど前から右肩上がりに伸びているのだ。変わらない味のロングセラーブランドが再成長できたのはなぜだろうか。 - 最大11時間飲み放題の「バー」が、じわじわ増えている秘密
若者を中心に、人気を集めているバーがある。店名は「The Public Stand」(通称:パブスタ)。最大11時間飲み放題で、価格は男性3240円、女性は1080円。この安さがウケているわけだが、採算はとれているのだろうか。パブスタを立ち上げた、担当者に話を聞いたところ……。 - 清算された「ハブ」が、過去最高を更新している秘密
「英国風パブ HUB」を運営しているハブの業績が好調である。2017年2月期の売上高は過去最高、18期連続で増収だ。かつて売上低迷で事業清算されたハブが、なぜ復活したのか。その理由について、同社の太田社長に話を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.