ハマーン・カーンの栄光と凋落に見る組織運営の要諦:元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(3/6 ページ)
ネオ・ジオンの若き指導者、ハマーン・カーン。彼女は組織運営にいかに成功し、そして失墜したのか。人口動態やガバナンスの観点から探る。
ネオ・ジオンの人口構成比とは
資源衛星を兼ねた軍事基地という性格上、アクシズは生産年齢人口の比率が高く、高齢者や子どもは少ないと考えられる。このような人口ピラミッドの場合、年金などの財政負担を低く抑えることができる。壮健な軍人が多ければ、医療費も少なくて済む。
ネオ・ジオンの場合、社会保障費の必要額が少なかったため、軍事費に傾斜した予算配分を行えたのだろう。このような特殊事情があったので、MSの研究・開発を含む、急速な軍備拡張を行うことができたと推察できる。
だが、こうした状況はやがて崩れる。一年戦争やデラーズ紛争の敗残兵の流入もあって、アクシズの人口構成は男性過多・女性過少になっていたはずだ。これは後に急速な高齢化を招きかねないことを意味する。
合計特殊出生率とは1人の女性が出産する子供の数を指す。医療・栄養状態などの影響を受けるが、人口を維持するためには合計特殊出生率は2をやや上回る必要があり、日本などの先進国では2.07程度が適切と言われている。もっとも、これは男女比に著しい偏りがない場合の数字である。
仮に、男女比が2:1の世代があると、その世代と同じ人口を維持するために必要な合計特殊出生率は3になる。男女比が4:1の世代があれば5となる。そして、生まれてくる次の世代で男女比が等しくなれば、人口を維持するために必要な合計特殊出生率は2になる。
合計特殊出生率に影響する要因には諸説あるが、女性の権利が保障され、社会進出が進み、経済的自由度が高くなると合計特殊出生率が低下するという説がある。ネオ・ジオンはジオンの姫ミネバ・ザビを頂点とし、実務上のトップであるハマーン・カーンも女性である。キャラ・スーンやイリア・パゾムといった女性士官も活躍しており、女性の地位が低いということはなさそうである。アクシズは、発展途上国のような高い出生率ではなかっただろう。
いずれ高齢化により軍事力が低下することを考慮すると、ネオ・ジオンは一年戦争を経験した世代が現役のうちに、地球圏に戻る必要があった。また、ハマーンの個人的な立場で考えると、ミネバが成人した場合、自由に権限を振るえなくなる恐れがある。もし、ミネバが婿を取るようなことになれば、ハマーンは権力の座から追われることもあり得よう(その前に来るミネバの反抗期も心配だ)。
人口動態や権力の維持を勘案すると、ハマーンにはあまり時間的余裕がなかったと考えられる。
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