ハマーン・カーンの栄光と凋落に見る組織運営の要諦:元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(4/6 ページ)
ネオ・ジオンの若き指導者、ハマーン・カーン。彼女は組織運営にいかに成功し、そして失墜したのか。人口動態やガバナンスの観点から探る。
演出の才もあったハマーン
このような状況下、地球連邦軍の派閥争いであるエゥーゴとティターンズの抗争は漁夫の利を得る絶好の機会となった。
直感的な印象よりも、第三勢力の影響力は強い。条件次第では、ごくわずかの戦力でもキャスティング・ボードを握ることができる。単純化した数値例で、エゥーゴ、ティターンズ、ネオ・ジオンの戦力比を47:49:4と仮定しよう。いずれの勢力も過半を越えていないが、他のどの勢力と組んでも過半を越えることができる。
エゥーゴとティターンズが組んで、まずはネオ・ジオンをつぶすのが順当だが、裏切られてネオ・ジオンと組まれた場合は、戦力で自軍が劣勢となる。エゥーゴとティターンズに相互不信があるため、協調行動を期待するのは難しい。「囚人のジレンマ」に陥り、ネオ・ジオンに翻弄された状態と言えよう。「機動戦士Zガンダム」の後半で、ハマーンが交渉のキャスティング・ボードを握る姿が描かれているが、原理としてはシンプルな構図とも言える。
ハマーンには演出の才もあったようだ。「機動戦士Zガンダム」(第32話 謎のモビルスーツ)では、エゥーゴとティターンズの戦闘に介入する形でネオ・ジオンが登場し、両軍の戦闘を止める。ある種の力の誇示ではあるが、「同盟を組むに足る存在」であることを印象付けようとしたのだろう。
アステロイドベルトから地球圏までの移動には数カ月を要する。冷静に考えると、ネオ・ジオンの軍勢が最初に確認されたのが、上述の戦闘介入というのは偶然にしては出来過ぎである。恐らく、ミノフスキー粒子を散布してレーダーに捕捉されないようにしながら、ベストのタイミングで登場できるよう潜んでいたのだろう。
極めて戦略的な行動である。人類がまだ地球に住んでいた西暦の時代、ハマーン・カーンと似た名前の人物がいた。ハーマン・カーンという男性である。ランド研究所時代にゲーム理論などを用いた核戦略を研究し、ハドソン研究所を設立して未来予測に従事した奇才である。
気位の高いハマーンのことである。全く同じ名前ではないとはいえ、名前負けするなどプライドが許さず、研さんを積んだのだろう。それに失礼ながら、ハーマンのルックスはハマーンの美意識からはちょっと許容しがたいレベルだったのではと思われる。
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