野球データから経営のKPIを考える:言葉は浸透したが
ビジネスシーンでは当たり前のように使われるようになった「KPI」という言葉。しかし、多くの企業では本質的な意味を取り違えているケースもあるのだという。
ビジネスや経営の現場で「KPI」という言葉が広く使われるようになった。KPIとは、Key Performance Indicatorの略で、重要業績評価指標などと言われる。読者の皆さんも例えばチーム会議で「このプロジェクトのKPIは何か?」などと話し合った経験を持つ人もいるはずだ。
しかし言葉が企業に浸透する一方で、定義や活用方法には多種多様な見解があり、バラつきがあるのも事実だという。国内投資ファンドのアドバンテッジパートナーズでパートナーを務める束原俊哉氏は「KPIを設定する企業は多いが、単なるダッシュボードになっていることが散見される」と指摘する。
そうならないためにはどうすればいいのか。束原氏は2つのポイントを挙げる。ひとつは自社の戦略と事業モデルをしっかり理解すること、もうひとつはその上で本当に経営やビジネスの鍵となる指標を絞り込むことだという。
こうした背景もあり、多くの企業にKPIの正しい理解を深め、競争力を高めることを目指し、同社はKPIマネジメントに関するセミナーをこのたび開催した。
同セミナーでは、スポーツとKPIに関する基調講演が行われ、野球データアナリスト集団・DELTAの岡田友輔代表が米メジャーリーグ(MLB)を題材にベースボールにおけるデータ活用の最前線を紹介した。
KPIの変化が選手の評価にも影響
現在のベースボールにおいて、もはやデータはなくてはならない存在だ。むしろあらゆるものがデータによって丸裸になっている。例えば、勝利の構造もデータに紐づいている。勝敗は得点と失点の関係によることを前提にすると、得点・失点と勝率には強い相関があることが分かる。ここから進んで、選手の評価も得点と失点に置き換えて考えるのが今のMLBである。
そこから導き出されたのが、「出塁」と「進塁させる力」が得点を挙げる原動力になるということだ。これを最初に提唱したのが米国のスポーツライターであるビル・ジェイムズ氏で、得点の構造を説明する上で最も一般的な考え方となっている。野球データを統計学的に分析する「セイバーメトリクス」の生みの親でもある。
これを基にすると、ゴロとフライはどちらが得点に貢献するかが見えるという。一般的に昔から野球では「ゴロを打て」と言われるが、実は統計的なアプローチに基づくと、プロレベルであればごろよりもフライの得点貢献が高いのである。「選手や監督に理解されず、MLBでもこうした考えが浸透するのに時間がかかった」と岡田氏は話す。
これに伴い打撃のKPIも変化した。かつては打率が良い打者が評価されたが、現在は、強い打球を約20〜35度の角度で打つ打者、極端に言うとフライを打てる打者が出塁や長打を最も見込めるようになるため評価される。
同様に、投手のKPIも変わってきており、防御率は再現性が低いという点で評価されなくなっている。「統計がこれまで当たり前だったベースボールの物差し(KPI)を駆逐した」と岡田氏は力を込める。
このように野球でのデータ活用の成功を踏まえ、ビジネス界でもさまざまなデータ分析から導かれたKPIを設定し、経営をマネジメントしていくことが肝要だとした。
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