なぜ「翔んで埼玉」はセーフで、「ちょうどいいブス」はアウトなのか:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
「自虐」を前面に押し出すことで、世間の関心を集める「自虐マーケティング」が盛り上がっている。「じゃあ、ウチもさっそくやってみよう」と思いたったマーケティング担当者がいるかもしれないが、気をつけていただきたいことがある。それは「地雷」があることだ。
自虐トレンドは続く
「ちょうどいいブス」というのは、お笑いコンビ「相席スタート」の山崎ケイさんがよく使う自虐ネタで、『ちょうどいいブスのススメ』という著書もヒットしている。
この人気を受けて今年1月、日本テレビが同名タイトルのドラマを制作すると発表したところ、批判が殺到して結局、『人生が楽しくなる幸せの法則』に改めたことがあった。
考えてみれば、これは当然で、山崎さんが自身のことを「ちょうどいいブス」と言うのは、自分自身をネタにしているのでいくらやっても問題ない。しかし、日本テレビというアカの他人が言うと、まったく意味合いが変わってくる。
どういう言い訳をしても、「世の中にはこういう女性っているでしょ、ほら、そこに目をつけたこのドラマって面白いでしょ」という調子で、「女性をネタにした他虐」になってしまう。そうなれば、不快に感じる女性や、傷つく女性も出てくるのも当たり前なのだ。
ご存じのように、PR動画やプロモーションで「炎上」をしている企業や自治体は、その動画やキャンペーンに「女性」を起用していることが多い。壇蜜さんに亀をなでさせたり、養殖ウナギを女子高生に見立てたり、あるいは出張中のビジネスマン目線で、お近づきになったご当地美女に、「肉汁いっぱい出ました」とか言わせたりするなど、「女性をネタ」にするパターンが非常に多いのだ。
もちろん、女性を出演させたり、題材にするななど言っているわけではない。自分たちをネタにしなくてはいけないところ、「女性」に主として頼って、いつの間にか主従が逆転することが問題だと申し上げたいのである。
『翔んで埼玉』があれほどヒットしたことを考えれば、企業や自治体の「自虐トレンド」はこれからもしばらくは続くはずだ。そこで余計な「炎上」を避けるためにも、マーケティング担当者の方は、動画やキャンペーンで「女性」をどう扱うのか、慎重に検討していただきたい。
ポイントは、そこに男目線のユーモアだけではなく、ちゃんと女性への「敬意」と「愛」があるのか。誰かを傷つける「他虐」になっていないのか。「イジり」と「イジメ」は紙一重だ。企業や自治体には、誰かをさげすむようなものではなく、みんなが笑える「自虐ネタ」を期待したい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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