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難病と生きる「孤高の書道家」――スマホ時代に問う「手書きの意味」言葉による内省(3/5 ページ)

スマートフォンが普及し、手で文字を書く機会を失いかけている時代に、組織や団体に属すことなく書の根源的な意味を探り続ける研究者がいる――。

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難病を患い気付いたこと

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財前さんの作品。「あきつしま 大和国の筆の道 空海大雅秋艸にわれ」

 財前さんは29歳のときに、腸に炎症を起こし慢性的な下痢や血便、腹痛に悩まされる難病指定の炎症性腸疾患「クローン病」を発症し、現在も病と共に生きている。発症後は腸からの大出血を繰り返し、貧血状態が続いた。「死ぬ一歩手前の状況に何度もあった」という。

 「もうすぐ死ぬんだな……と、ずっと思っていました。いつも頭痛や腹痛、吐き気に悩まされていましたから。若かったのでどんな痛みにも耐えられましたが、貧血だけには耐えられませんでした。入院中に病院のトイレで下血し意識を失ってしまい、気が付けばベッドに運ばれ輸血をされていたこともあります。でもどんなに出血しても、ぎりぎりのところで血は止まる、と医師から聞かされ、『人間の体は不思議なものだ』と思いましたね。

 そういう意味では『人はそう簡単には死なない』とも気付かされました。発症当時は原因不明なので対症療法しかありませんでしたが、その後、別の病気のために開発された薬が私の病にも効果があることが判明し、飛躍的な改善につながったのです。医療の進歩も実感してきました」

 そして財前さんはこう続けた。「貧血の状態で肉体が危機的な状態になると、かえって頭は冴えわたるんです」。日常の中では見えてこなかったものも見えてくるような感覚になったという。「慶応義塾大学病院のベッドの上で平安時代のかな文字を来る日も来る日も眺めて、いろんな発見をしました」。

 病を患い、人生の短さを知った財前さんは、39歳で教師を辞め独立した。書道の道を究(きわ)めたいことも理由の一つだったが、組織の中で管理職を担うのは考えられなかったという。教師を辞めて数年間は定職に就かず「人生の昼寝をしていた」と笑うが、その間に先述した通り、手書きに関する書籍を上梓することになった。

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