続・スバルよ変われ(前編)――STI社長インタビュー:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
スバルの問題点を指摘した記事『スバルよ変われ』。そこで書いた「安全と愉しさ」だけでもなく、スバルの中期経営計画(中経)についても疑義があった。それは手の内を何も明かさない中経に何の意味があるかという疑問だ。スバルはもっと情報を開示し、スバルとはどういう価値を生み出す会社なのか。
エモーションのシェアリング
平川 安心と愉しさをしっかり定義するためには、ちゃんとしたプロセスが必要だと思います。分かりやすい例で言うと、経済合理性だけを重視したシェアリングがあたかも次の時代を牽引(けんいん)していくかのごとく使われていますよね?
池田 はい。
平川 で、スバルにとってのシェアリングって何なのかを俯瞰(ふかん)してみたときに、お客様と作り手とが一つの感動なり、今まで体験していなかったことをシェアする。つまりSNSで不特定多数に向けて、自分の気持ちをシェアする。
例えば500万円のクルマを5人で100万ずつシェアするような経済合理性の話ではなくて、感動なり、考え方なり思いなりをシェアする。そういうことを土台に置いて、そうするためのツールとして次の時代のスバルのクルマを作っていく。じゃぁスバルのクルマを生活の中に取り込むことによって、どんな豊かさや人間としてのわがままが享受できるのか満足できるのかを因数分解していく中で、具体的な達成手段としてのエンジニアリングが存在すると。そういうアプローチで考えていく中で、現在の中経は部分部分のアプローチしか語れていないと思うんです。
池田 エモーションの共有というのはとても分かりやすいのですが、エモーションを生み出す機械、自動車メーカーである限り最後はプロダクツですから、いったいプロダクツでどうやってエモーションを生み出すか、そこを教えてください。
平川 例えばひと昔前、まさかクルマが勝手にブレーキを踏んでくれるとは思わなかったですよね? これも一つのエモーションですし、技術によって具体化した「安心と愉しさ」の一つなわけです。けれどそれは部分でしかなくて、もっとお客様の生活の全体が、スバルを愛車にすることで、どんな誇りを持ってもらったり自信を持ってもらったりするのか、生活を豊かにしてもらうのかってことをちゃんと、「安心と愉しさ」で再定義しなくちゃいけません。
じゃあ再定義とはどういうことなのかと言えば一つは「人間ってわがままだ」ってことだと思います。環境には当然良くなければならない。だけども一方でゾクゾク、ワクワクする、ある意味驚きにも似たような感動を求めるのです。
池田 心躍る体験ということですか?
平川 そうですね。その心躍る体験がないと、経済合理性だけのシェアリングになってしまいます。もちろんいくつかある軸の1つ目としては経済合理性は大事ですけれど、スバルはそれにもう2つの軸を加えたいと思います。
2つ目の軸は今言われたような、想像を絶する感動を感じられるような商品を、お客様と作り手との間にちゃんと据えて、作り手だけの一方通行ではなくて、お客様と感動をシェアすること。感動をシェアするためのクルマが本来持つべき、持たせるべき新しい技術として、単に認識して、判断して、操作するということをある領域だけで止めるのではなく、お客様と共有化したいことをちゃんと認識するということだと思うのです。
池田 うーん。正直に申しまして概念は分かりますが具体的にどういうことなのかが分からなくて腹落ちしません。具体例を1つか2つ挙げていただくことは可能ですか?
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