続・スバルよ変われ(前編)――STI社長インタビュー:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
スバルの問題点を指摘した記事『スバルよ変われ』。そこで書いた「安全と愉しさ」だけでもなく、スバルの中期経営計画(中経)についても疑義があった。それは手の内を何も明かさない中経に何の意味があるかという疑問だ。スバルはもっと情報を開示し、スバルとはどういう価値を生み出す会社なのか。
対症療法ではなくて根本から
池田 私は、吉永会長が改革のためにおっしゃってきたことにとても賛成なんですよ。素晴らしいことをおっしゃっているなといつも思ってきたのですけれど、今回極めて残念なことに、完成検査問題の完全な洗い出しができなかったという、本当に意味があったのかよく分からない問題で社長を辞任して会長に退かれた。それは日本経済全体にとってもマイナスだったと思うんです。吉永さんの言葉にあった改革のための問題把握はとても分かり易かったんです。それが今はあまり聞こえて来ない。
多分、今こういう状況なので、スバルの中の人たちが自信を喪失している。ネガティブになっているんだと思うんですよ。組織ってそういうものなので。だからこそ、中経は、スバルの中の人たちに向けて、もっと具体的なメッセージをどんどん出すべきだと思うんです。そのためには何をどう頑張ればいいのかはもっと明確に示していかないといけないと思うんですよ。そして、スバルが問題を解決して、襟を正した会社として復活するために、役に立つのだとすれば、われわれ外のメディアも協力して、意味のあるメッセージを発信していくことはいくらでもお手伝いしたいと思います。
平川 本当にありがとうございます。真正面からお答えできるかどうか分からないのですが、今まさにスバルとして、技術でそれに対してお答えしようと、3つの取り組みをやろうとしています。1つは、全ての技術に真正面から真摯に向き合うこと。ある問題は搦め手(からめて)からアプローチして対策しても解決できる場合もあるんですが、少人数のスバルであるから、お客様と分かち合いたいテーマや課題には真正面から向き合って解決していきたいんです。
池田 つまり対症療法ではなくて根本から治療するということですね。
平川 根本からやるということが土台にないといけません。当然、社会的な面、規制などの環境をはじめとする問題、交通安全をはじめとする問題、地球全体のことを長期的に考える問題。この3つを土台にしたいと思います。その上で、先ほど言いましたように、お客様の思いを解釈して、気持ちを逆なでしない状態で、クルマが自然に動いてくれること。
池田 おっしゃることは分かります。私が今思い出したのは80年代のベンツが作ったアンチロックブレーキの話です。釈迦(しゃか)に説法ですが、タイヤのスリップ率は10%程度の時が一番グリップが上がる。ロックすると制動距離が伸びてしまいます。だから急ブレーキの時、ロックさせずにスリップ率をコントロールするのがアンチロックブレーキの役割なんですが、それが通用しない路面もありますよね? 砂利や砂や雪の上だったらブレーキはロックさせた方が止まります。そこをどうするかということに関して、当時の日本のメーカーはアンチロックブレーキのキャンセルスイッチを付けたんです。でもね。そんな止まらないっていうパニック状態でキャンセルスイッチなんて押せないですよね。解決になっていない。
当時のベンツが何をやったかというと、パニックになった時ドライバーはもっとペダルを踏みます。どんどん強く踏む。当然そんな踏み込み圧力は通常のブレーキ操作であり得ないという所を超えると、アンチロックブレーキを解除してロックさせる。誰も使い方を知らなくても使えるし、おそらくはそういう機能に助けられたことにすら気づかない。そしてキャンセルスイッチを戻し忘れることも起きない。こういうものが人の気持ちをくみ取るクルマの真髄に近いところだと思うんです。
平川 そういうことを一つ一つテーブルの上に出し合って、立場が違うメンバーがテーブルの上に出し合ったものを真面目に真正面から磨いていく。そういうことを土台にしていかないといけないですよね。
池田 部署間のセクショナリズムを排除できないとそれは成立しないですよね。ボクはマルチファンクションディスプレイって概念があまり好きじゃないんです。情報の重要度にきちんと序列を付けることを放棄している部分があると思うんです。
平川 いやいやおっしゃることは分かりますが、そういうことはないです。
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