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“ゴーン予備軍”は存在する――「怪物」を生まないためにゴーン報道の第一人者が語る【後編】(1/4 ページ)

長きにわたって日産とゴーンを追い続けてきた「第一人者」に、希代のカリスマの実像とゴーン事件が日本社会に残す問題について聞いた。

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 日産自動車のカルロス・ゴーン前会長を巡る事件報道が再び過熱している。4度にわたる逮捕劇に加え、記者会見を阻まれたゴーン前会長本人が無実を主張している動画を弁護団が公開するなど、劇場型の展開が続く。

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「怪物」を生まないためには何が必要か?

 日産や検察、弁護側のリークとみられる情報が錯綜する一方で、問題を単なる同社の“お家騒動”に終わらせず、「ゴーンとは一体、何者だったのか」と問う言説が現れ始めた。朝日新聞記者時代から長年にわたり日産とゴーン氏を追い続け、『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文藝春秋社)を2月に上梓した井上久男氏も警鐘を鳴らす1人だ。

 前編記事(「ゴーンという『怪物』を生んだのは誰か 日産“権力闘争史”から斬る」)では、ゴーン前会長の登場前から「独裁者」が現れ、派閥抗争を繰り広げてきた日産の歴史をひもとき、“怪物”を生み出した土壌について指摘した。後編では、ゴーン前会長に何度も単独インタビューをしてきた井上氏に、希代のカリスマの実像とゴーン事件が日本社会に残す問題について直撃した。

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井上久男(いのうえ・ひさお)1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を選択定年。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ愚直なる人づくり』(ダイヤモンド社)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文藝春秋社)。カルロス・ゴーン氏の功罪を振り返りながら今回の事件の背景と本質に迫った企業ノンフィクション『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文藝春秋社)

――井上さんは2007年と18年にゴーン前会長に単独インタビューをしています。ゴーン前会長はやはりカリスマ性や魅力を感じる人物にも見えますが、実際の印象はどのようなものでしたか。

井上: メディア対応がうまい人ですね。30〜40分くらいの取材で原稿が何本も書けるくらいでした。想定問答が用意されていなくても、自分の頭で考えたことをビシッとしゃべれる。メディアには有難い人物です。

 彼は「プロの経営者というものは複雑なことをシンプルに説明できる」ということをモットーにしていました。若い時から経営者を務め、メディアや株主、従業員といったステークホルダー(利害関係者)に対して、どのように説明すれば理解してもらえるかを考え、自分なりに訓練してきたし、分かりやすく伝える才能もあるのだと思います。

――来日以来、何度もインタビューをされていますが、彼と直に接して印象が変わったことはありますか。

井上: メディアに対してのしゃべり方、考え方は(日本に)来た時から変わっていないと思います。「ああ言えばこう言う」というのがうまいところもあるし、逆に自分が反論できないと思うと「私は自信がないです」というような発言をしてしまう。

 07年にゴーン氏が来日以来、初の減益になり、全国行脚して日産の関係者に取材をして、長いレポート記事を書いたのですが、その時のインタビューでは「経営者も良い時と悪い時がある。私だって自信がない時はありますよ」と言っていました。率直に認めてしまうところもある。ちょっと憎めないところ、愛嬌もあるんですね。ただそれは表の顔であって、もう一つの「裏の顔」があったということでもあります。

 ともかく、メディアは大事にする人でした。スケジュールさえ合えばきちんとインタビューも受けてくれた。雑誌でボコボコに批判する記事を書いたらゴーンさんはカンカンに怒りましたが、ちょっと間を空けると取材を受けてくれましたよ。「I know your face(あなたの顔を覚えている)、今日も悪い記事か」と。メディアにどう描かれているかを常に気にしていました。

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