資産運用で挫折しそうなときに“激励” AIが読み取るユーザーの心理とは?(2/2 ページ)
資産運用の王道は、長期・分散・積立だが、この「長期」が難しい。相場が下がれば不安になるし、上がれば利益を確定したくなるのが人の心理だからだ。長期投資できないという資産運用の最大の落とし穴を、AIがサポートする研究をウェルスナビが東大松尾研究室と進めている。
長期投資をどうサポートするか?
背景には、個人の資産運用で重要な「長期投資」の難しさがある。株式を中心とした資産運用では、分散した資産を長期に運用することで、リターンが平準化され安定した結果をもたらすとされている。たとえリーマンショックの直前に資産運用を始めても、10年間売らずに持ち続けていれば、しっかりとリターンが出ているというグラフは、さまざまなところで紹介されている。
「王道の資産運用の中で一番難しいのが長期投資。どんな方法がいいかよりも、長く続けるのが難しい。実際、日本の投資信託の平均保有年数は3年くらい。長期投資は10年、20年単位なのに3年という短い期間になっている」(牛山氏)
長期投資のつもりで始めても、途中で値段が大きく下がると不安になり、結局最も安いときに売ってしまう。長期投資でやっていこうと思っていたのに、それが続けられない。
この「不合理」ともいえる行動を、AIを使ってどうサポートするか。「ユーザーを理解する。理解できればその人が次にどんな行動を取るかが分かる。それが分かれば、不合理な行動をしないように働きかけができるのではないか」(牛山氏)
ユーザーの行動を分析し、投資中断に至る異常値を探す
研究では、ユーザーの行動データを中心に大量のデータを集め、普段とは違った行動を見つける「異常検知」という方法を使った。
「不合理な行動を取るときに何を考えているのか。投資の中断を決意した結果、投資を中断するが、そのきっかけは何だったのか。原因となった、通常とは異なる行動パターンを見つけられれば、中断前に対応できる」(牛山氏)
アクセス回数や普段見ない画面へのアクセスといった行動データを、機械学習のモデルにかけて異常値を見つける。6つのモデルについてスコアリングを行い、通常との違いを示す異常スコアをAIで導き出す形だ。この異常スコアの高いユーザーに、中断を思いとどまらせるようなアドバイスを行う。
例えば、普段と違う深夜などに何度も運用成績をチェックしたり、出金画面にアクセスしたりといった行動が続けば、その人は投資を中断しようかと悩んでいるのではないかと推定できる。その時、メールやアプリのプッシュサービスを使い、長期投資のメリットを改めて説いたり、今後の株価の見通しを伝えることで、投資の継続を促す。
異常検知には機械学習を利用しているが、これは全体のデータの中から異常値を見つけるというアプローチ。投資を中断した人がどのような行動をしていたのかを学習させる手法とは異なる。「幸いなことに解約率が低いため、投資を中断した人のデータが少なく、教師あり学習の手法が使いにくい」(牛山氏)という。
この研究成果を実際に活用していく時期は未定としたが、実際に投資を中断してしまう人のほとんどは、異常検知から予測できる手応えがあるという。
関連記事
- 富裕層と同じ金融サービスを受けるには? WealthNavi柴山CEOに聞く
人間に代わってアルゴリズムで運用を行ってくれるロボアドバイザー。そんなWealthNaviを提供するウェルスナビの目指すのは、富裕層が受けているようなサービスを一般の人たちに提供することだった。 - AIに投資を任せる時代 市場はどう変わる?
このところ人工知能(AI)技術を活用した資産運用サービスへの関心が高まっている。投資の世界にAIの技術が導入されれば、多くの人にとって恩恵がもたらされる可能性がある。一方で、資産運用の多くがAIで行われるようになった場合、市場の動きはどうなるのかという疑問も生まれてくる。今回は、AIによる資産運用に関する期待と課題について述べていく。 - ロボアド「THEO」が手数料を値下げ 最大0.65%
ロボアドバイザーの「THEO」が従来1%だった手数料の引き下げに踏み切る。毎月積み立てをしている、出金がないなどの条件を設け、1万円以上の預け入れで0.9%とする。ほとんどの利用者にとって、10%の値下げだ。さらに預け入れ資産額が大きい場合、最大で0.65%まで手数料を下げる。 - 投資の提案・運用を自動で 東海東京証券、「ロボアド」で若い世代を取り込み
東海東京証券は11月7日、投資初心者向けのロボアドバイザー(ロボアド)「カライス」の提供を開始。近年注目を集めるロボアドサービスに進出し、次世代の新規投資層の「初めての投資」を応援する。 - 芥川賞作家・羽田圭介さんが説く「投資の思考回路」の作り方
人生100年時代というのは、定年退職してから退職金を資産運用して暮らしていこうと思っても遅すぎる時代に入ったということを意味する。では、若いうちからどのようにして投資を始めるのか? 自身の投資経歴を元に、投資の思考回路の作り方を、芥川賞作家の羽田圭介さんが話した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.