「24時間からの撤退」を突き付けられたコンビニ本部の“生存戦略”:小売・流通アナリストの視点(4/6 ページ)
コンビニ本部と加盟店が対立し、クローズアップされる24時間営業の是非。今、コンビニ本場が取るべき「生存戦略」とは――。
「FC契約=ブラック」か?
ただこの話は、「コンビニFC契約=ブラック」だというために書いている訳ではない。給与で働く従業員とは異なり、働く環境は厳しくても成功すれば、相応の報酬を得ることができるのであれば、そして、そのことを加盟店経営者が納得しているのであれば、別に問題があるわけではない。複数店経営者となって、規模を拡大している加盟店も数多く存在する。
その仕組みが、長い間、本部と加盟店とが共存共栄する組織として機能したからこそ、コンビニは国内5万店にも及ぶ一大産業として日本に定着したのであろう。ただ、ルールだからといって個別加盟店の事情を加味せず、全ての店に画一的に24時間営業を強制するとなれば、対等の契約関係である以上、紛争になって当然だと言えよう。
コンビニ本部とは、客観的にみても面倒見の悪いFCチェーンではなく、さまざまな機能を提供する組織である。一般論で、事業における、(1)ヒト、(2)モノ、(3)カネを、本部と加盟店で分担し合う「フランチャイズ」という仕組みは、この3要素に関するリスクを分担するということでもあるのだ。「ヒト≒雇用リスク」、「モノ≒商品やサービスの陳腐化リスク」、「カネ≒財務リスク」と分類してみよう。多くのフランチャイズチェーンでは、こうしたヒト、モノ、カネのいずれも本部ではなく加盟店がリスクを負担するという契約になっている場合は少なくない。
店舗運営のため、設備投資を負担し店を作り(カネ)、人員を集めて、労務管理、費用負担を行い(ヒト)、営業努力を行うが、本部が商品、サービス維持改善のための追加的投資を怠るケースは多い。この点で、コンビニというフランチャイズビジネスは相対的にみて、「やらずぼったくり」の本部とは言い切れない。
ヒトに関しては、今回のような問題を引き起こしているわけだが、カネにあたる設備投資に関して、加盟店に投資させて「あとは知らん顔」という訳ではなく、今では、投資は本部の方で負担する方式がほとんどだ。加盟店が大きな債務を背負わされて逃げられなくなる、というようなケースがコンビニチェーンにおいて一般的と言えるかは疑問だ。
コンビニの出店方式は、かつては前述のような個人商店からの切り替えが多かったため、店舗不動産は加盟店の持ち込み(加盟社所有 これをAタイプ店舗という)が多かった。近年ではそうした個人商店も少なくなったため、加盟店経営者は脱サラ組がほとんどで、店舗は本部が用意した物件を賃貸する(これをCタイプ店舗という)ことがほとんどである(下図)。
小売店においては、どこに店を構えるかという立地判断が、商売の成否を8割方決めると言われている。脱サラした個人が商売を単独でスタートさせるとしても、これまでに膨大な出退店データを保有しているコンビニの場合、立地判断に関して、加盟店のリスクはかなり軽減されている。
そして最もインフラとして整っているのが、商品・サービスの陳腐化を避けるための、コンビニ本部の投資だろう。1970年代にスタートした長時間営業だけが取柄の小型よろずやのような店舗から、コンビニは新商品、新サービスを開発し、改善し続け、今のような社会のインフラとまでいわれるビジネスとなった。この商品・サービスの開発に関しては、コンビニは消費者向けビジネスとして最も成功したモデルの一つであることは間違いない。
確かにコンビニ本部が加盟店の低収益を踏み台に、高収益をあげているというようにも見える、コンビニ本部の収益構造ではある。一方、本部がこのような高収益をあげ続ける収益基盤が確立されていなければ、新しい商品やサービスの開発に投資し続けることは難しかっただろう。この点で、コンビニの高い「上納金」も、加盟店の利益にもつながる原資となっていたはずだ。
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