銭湯不況時代なのに、なぜ「あけぼの湯」に人は集まるのか:東京最古の銭湯(3/4 ページ)
東京都内から銭湯が消えつつある。そんな “銭湯不況時代”でも流行る「あけぼの湯」の魅力とは。あけぼの湯の運営を担う嶋田照夫さんに話を聞いた。
「現実はそう甘くはない」
繰り返しになるが、あけぼの湯には平日、多い日に300人の客がやって来る。この来客数だけを見れば、あけぼの湯は繁盛しているように映るかもしれない。だが、「現実はそう甘くはない」と嶋田さんは言う。
東京都にある銭湯の入浴料金は460円(大人料金)。これは東京都公衆浴場対策協議会が決定しており、都内の銭湯は460円を上回る価格には設定できない。
2014年に消費税が5%から8%に引き上げられたことを受け、増税分をカバーする形で16年に入浴料金が450円から現行の460円に価格改定された。それ以降は据え置きが続いている。
「負担が大きくなったのは税金だけではない。電気代や水道代など、あらゆる経費がどんどん値上がりしている。それを考慮した入浴料金にしてくれないと、我々(銭湯)の利益が減ってしまうばかり」と嶋田さんはこぼした。
実際に新しい設備を導入したり内装を整えたりしたくても、資金調達をする段階で諦めてしまう銭湯は多いようだ。
では入浴料金を上げるように銭湯が一丸となって声を上げればよいのではないかと思うかもしれないが、話はそう単純ではない。入浴料金の増額には反対する銭湯もあるためだ。安さも銭湯の魅力の一つと、10円の値上がりでも顧客減少につながりかねないと懸念しているという。
経営者の高齢化も進む中、あけぼの湯のように顧客離れ対策や新規顧客の獲得を狙った新たな施策を打ち出せる余力のある銭湯はそう多くはなく、“負のループ”から抜け出すのは簡単ではなさそうだ。
嶋田さんを悩ませている課題がもう一つある。それは「人手不足」だ。
「20〜30年前だと、2〜3人の募集をかけると10人くらい応募があった。でも今では応募が全くないことも珍しくない。特に夜のシフトだと、銭湯の掃除が終わる時間には終電がなくなっている。基本的には近所の人しか対象にならないので、余計に人が集まらない」
給料を上げて人を集めたくても、そこまでの余裕はない。「人手が足りない分は私と妻とで頑張って、なんとかやっています」といい、休みは週1日あったらいい方だと明かした。銭湯をオープンしていない日も事務作業などをこなしており、“年中フル稼働状態”で働いている。
そんな多忙な日々を過ごす嶋田さんだが、「お客さんに喜んでもらうことが何よりの生きがいだから頑張れる」と笑顔を見せた。
「あけぼの湯は近所から来るお客さんが中心ですが、最近は遠方から来られる方も増えました。時々ですが、インターネットであけぼの湯を見つけたという外国人も来たりします。これからも、いろいろな層のお客さんに来てもらい、楽しんでもらえる銭湯づくりをしてきたい」
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