なぜ日産は「技術」をアピールして、「ぶっ壊せ」と言えないのか:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
日産の業績が悪化している。「ゴーン前会長のことがあったから仕方がないでしょ」と思われている人が多いかもしれないが、筆者の窪田氏はちょっと違うところが気になるという。それは、同社のCM「ぶっちぎれ、技術の日産」というコピーだ。
ガバナンス不全に陥るリスク
そのような「技術自慢」を続けているうち、排出ガス規制の不正が明らかになってしまったのは周知の事実だ。それは、同じグループで昨年、ルぺルト・シュタートラー会長が逮捕されたアウディも同様である。
「Advancement Through Technology」(技術による先進)を掲げていた同社だったが、実は車の検査時のみ排ガスを抑える機能を稼働させる違法なエンジン制御ソフトを使っていた疑いが持たれている。
日本だけではなく、海外でも同様の現象が確認されるということは、「技術自慢」を長く続けることは、ガバナンス不全に陥って「不正」や「改ざん」を引き起こす恐れがあるということである。「そんなのは強引なこじつけだ!」とどうにかしてこの2つを切り離したい方たちも多いだろうが、ちょっと冷静になって考えれば、そのようなリスクが生じるのは当然なのだ。
「技術」というのは、あくまで製品やサービスを生み出すための「手段」に過ぎない。要するに、アウトプットのためのインプットだ。どんなに優れていようとも、どんなに革新的であってもそれ以上でもそれ以下でもない。しかし、「技術自慢」を何年も続けていると、いつの間にやらそれを忘れて、「手段」こそが守らなくてはいけないものだと従業員たちは刷り込まれていく。この強迫観念のような「勘違い」が「不正」や「改ざん」のトリガーになってしまうのである。
本来、企業とは製品やサービスというアウトプットで、顧客を満足させて、社会をよりよくさせていくものだ。だから、健全な企業というのは、アウトプットを重視する。顧客の嗜好(しこう)や社会の変化に合わせて、製品やサービスの質を高めていくのだ。しかし、「技術自慢企業」はその当たり前のことができなくなってしまう。
製品やサービスというアウトプットよりも、「技術」というインプットを重視しているため、顧客の嗜好や社会の変化についていけない。かといって、現場の人間はそれを認めることもできない。何をおいても守らなくてはいけない「技術」を全否定することでもあるからだ。
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