元楽天トップセールスが編み出した「半年でチームを自走させる」マネジメント、3つの秘訣(3/4 ページ)
少子高齢化に伴う人材不足が深刻化する中、“今、いるメンバーの力をどうやって最大化する”かが、リーダーの腕の見せ所だ。元楽天のトップセールスマンが編み出した、短期間で自走するチームを作る方法とはどんなものなのか。
リーダーとしてビギナー集団をどのように率いていくか?
こうして“落ちこぼれ寸前の状態”から見事にトップ営業へと返り咲いた内田氏は、その実績を買われ、九州エリア全域の新規営業チームを率いるリーダーに抜てきされる。しかし、営業で頭角を現しても、リーダーという新たな役割では当初、まったく鳴かず飛ばずだったという。
「当時は、毎日、朝から晩まで1件でも多く電話をかけてコンタクトを取り、時間の許す限り多くのお客さまを訪問するといった日々を送っていて、とにかく働きずくめでした。圧倒的な営業量に加えて、それまでの経験で培ったノウハウもありましたから、自身の目標は達成できていたんです。でも、リーダーとして同じことを新卒や若手のメンバーに求めても、うまくいかないわけです。今、思えば、誰もそんな働き方なんてしたくないわけで、当たり前なのですが……。やがて全員が疲弊して組織が機能不全を起こしてしまいました」
そんな失意の中、内田氏に挽回のチャンスが訪れる。名古屋支社で、新たに営業チームを立ち上げることが決まり、リーダーとして赴任しないかと打診されたのだ。二つ返事で了承し、希望を胸に名古屋支社に異動した内田氏を待ち受けていたのは、九州支社以上に過酷な状況だった。
「通常、新たに営業チームを立ち上げる時には、一定数、精鋭をそろえるのですが、名古屋のチームに集まったメンバーは、新卒中心で営業経験がほとんどないメンバーばかりでした。案の定、チームの立ち上げ当初は、目標の半分にも届きませんでした。九州で一度、マネジメントに失敗しているだけに、いよいよ“後がない”と覚悟しました」
そこで内田氏が始めたのが、毎日の営業会議で“自身の営業ノウハウ”と“パッション”を、徹底的にメンバーに注入するという方法だった。毎晩、その日に獲得できた見込み客の状況を聞き、「もし自分なら次に何を確認して、こういうふうに商談を進める」というフィードバックを、全案件について行うことで、自身の提案ノウハウを最短でメンバーに伝えようとしたのだ。
その際に最も重視したのが、「われわれは、なぜ、この仕事をやっているのか?」を徹底的に問い直すということだった。
「『なぜ、自分たちがわざわざ名古屋に集結して、新規営業チームを立ち上げたのか。それは、ネットを使って名古屋のお客さまの事業を豊かにして、地方から日本全体を元気にするためなんだ』――。そういう話を、繰り返し本気で語るようにしました。すると、徐々にメンバーも同じような話をするようになってきたのです。毎日、小さい単位でPDCAを回し、評価をフィードバックすることで、自ずと電話営業のトークにも熱が入るようになり、ちょうど私が新人のときに経験したのと同じように、結果が出始めたんです」
部下を無理やり引っ張っていくマネジメントから「自走する組織」へ
こうしてどん底の状態から急速に力をつけ始めたメンバーたちの必死の頑張りで、内田氏率いるチームは1年後、全国で営業成績トップの表彰を受けることになる。
表彰を受けたメンバーからは、「初めて仕事で結果を残せて、とてもうれしいです。ありがとうございました」という感謝の言葉をもらったが、次に出てきた言葉に同氏はショックを受ける。
「でも、あのときのようなキツイ働き方は、もう二度とできません」
確かに、チームのパフォーマンスを最大化するために、常にメンバーには限界ぎりぎりまで働くことを求めてきた。その結果、成果は出せたものの、これでは到底長続きしない……。そう考えた内田氏は、ちょうどそのころ、名古屋支社から埼玉支社への転属を命じられたことを契機に、思い切ってマネジメントの方向性を変えようと決意した。
「自分の猛烈な働きぶりを見せて、部下を無理やり引っ張っていくようなやり方では、いずれはメンバーが疲弊してしまい、成果が長続きしません。そのことに気付いてからは、無理やり引っ張っていくのではなく、部下が自ら成長し、その結果、自然と自走する組織になるようなマネジメントの手法を模索するようになりました」
自走する組織を目指す内田氏が真っ先に取り組んだのが、「組織とマネジメントの透明性の確保」だった。内田氏自身、九州時代に部下から「内田さんは何を考えているのか分からない」とたびたび言われたこともあり、その言葉の意味を突き詰めて考えたという。
「上司が何を考えているのか分からなければ、部下はどうしても上司の顔色をうかがいながらさまざまな詮索や忖度をするようになってしまいます。その結果、本来はしなくていいような無駄なコミュニケーションに時間を取られて、仕事の質が低下してしまうわけです。そんな事態を避けるためには、自分たちの目指すゴールを明確にし、そこに向かうためにどうするのかを考えさせ、なぜ働くのかという意義を伝え続けることが重要だと気付きました」
そこで内田氏は、仕事のルールやポリシーを明確にするとともに、部下を評価する際の基準を徹底的にクリアにして、誰が見ても分かりやすい形でチームのメンバーに伝えることに注力した。特に、「正しいやり方で正しい結果を出そう」というメッセージを、事あるごとに発信するようにしたという。
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