「東急8000系」誕生から50年 通勤電車の“いま”を築いた、道具に徹する潔さ:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
東急電鉄の8000系電車が、2019年11月に誕生から50周年を迎える。画期的な技術を搭載し、それらが現在の通勤電車の標準となった。“道具”としての役割に徹した8000系の功績を書き残しておきたい。
その後、8000系のうち45両は伊豆急行に譲渡された。2両編成と4両編成があり、2両編成は中間電動車に運転台が取り付けられ、海側の座席にはクロスシートが設置されるなど改造されている。外観は8000系のまま、伊豆急行のシンボルともいえる青と水色の帯が入った。8両編成2本はインドネシアに送られ、首都ジャカルタ近郊の通勤電車として余生を送る。
鉄道車両は「運搬具」である。大ざっぱなカテゴリーでいえば、ハサミや桶などの道具だ。必要があるから作られ、用が済めば廃棄される。外観や性能に秀でて、用途以上に関心を集める道具もある。そんな道具は保存展示される場合がある。道具本来の役割は終わり、技術の参考となったり、見るものを楽しませたりという役割に変わる。
しかし、保存される鉄道車両は少数派だ。ほとんどの鉄道車両は用が済めば廃棄される。道具としては当然の宿命だ。8000系はよくできた道具であり、道具に徹した。さよなら運転で花道を飾られただけ幸せだったかもしれない。
50年前に画期的な電車が誕生し、現在の通勤電車の先達として活躍した。それだけは覚えておきたい。そして今も伊豆やインドネシアで道具として任務を全うしている。誕生50年の節目に、なにか祝い事があったらいいな、とも思う。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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