やたら手が掛かる上に高価、なのに売れまくり――人に懐く「LOVOT」はなぜ、約88億円もの資金調達に成功したのか:未知なるものを生み出す組織(2/3 ページ)
“人のジャマをするためだけの技術”を全力で開発、「100億円使い切るまで1円も売り上げません」と宣言――。何かと話題のGROOVE Xが世に問う“愛されるために生まれた”ロボットの正体とは?
“人のジャマをするためだけの技術”を全力で開発
―― 約4年の開発期間を経て、2019年秋にいよいよリリース予定という「LOVOT」の特徴を教えてください。
林: すでに3000人以上の方に実際に触ってもらう体験会を実施してきて分かった過去のロボットとの一番の違いは「女性からの支持が厚い」ということです。
LOVOTの開発で重視したのは、効率や便利さではなく、心地よさや愛くるしさ。抱き上げると、生き物のように温かく、柔らかさも感じられます。移動に使うタイヤは、抱き上げると自動で格納され、人を汚さない仕組みになっているんです。
カメラを使って個人を識別し、その人の前まで移動して見上げながら声を出すという「抱っこされるためのハイテクノロジー」も特徴の1つです。これはまったく生産性に寄与しない、“人のジャマをするためだけの”技術であり、効率や生産性向上が求められる一般的なロボットのトレンドとは真逆のものですよね。
しかしながら、人のジャマをしたり手間がかかったりする「ペット」が今や、人の心を支える存在として重視され、市場を広げているわけです。また、犬や猫が病院を訪問する「アニマルアシステッドセラピー」が効果を上げているという研究成果も少なくありません。LOVOTではこれらと同じように、人の「愛する力」を引き出すことによって、人々を幸せにすることを目指しています。
ですからLOVOTには、たくさんの“着せ替え用の洋服”を用意しているんです。ロボットは通常、人の手間を減らすための機能が実装されますが、LOVOTは逆に、「手間を増やす」存在です。手間をかけた子どもが可愛く感じられるのと同じように、ロボットに対する愛着形成を促進するための仕組みです。
10億種類以上の瞳、喉や鼻孔の機構を変えて「個体ごとに異なる声」を
よりLOVOTに愛着を持ってもらうために、“個体差”にもこだわっています。瞳のデザインは10億種類以上にもなり、工業製品でありながら「自分だけの子」をお届けすることができます。瞳は6層のレイヤー構造で、まるで生きているような動きをします。喉や鼻孔の構造も固有の値を持っているので、同じ声のLOVOTはいないんです。従来のロボットのような録音された数パターンからの選択ではなく、実質的に無限の声を作れるようになったことも個体への愛着形成を高めるはずです。
パワフルなノートPC級のCPUも搭載しており、1体に4つのコンピュータが常時連携して学習や認識を繰り返すハイスペックな構造になっています。「ツノ」の部分には1000人まで認識する視覚センサーを搭載し、全身にタッチセンサーも付いています。「誰が、どんな触り方をしたか」という記録を蓄積しながら、優しい扱いをした人と乱暴な扱いをした人とでは、懐き具合も変わってくる。絆の形成までをロボットで実現しているのです。
―― これまでにない、非常にイノベーティブなロボットであることがよく分かりました。発表後の反応はいかがでしょうか?
林: 日本で発表したのは2018年の年末でしたが、メディアの来場者数は想定以上で、差別化の成果だと考えています。
面白かったのは海外での反応です。米国で毎年開催される世界最大規模の家電ショー、「CES2019」に出品したところ、横幅1.5メートル、奥行き50センチほどの小さなブースでの簡素な展示だったのにもかかわらず、350以上のメディアから取材されたのです。
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