着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
リニア中央新幹線の2027年開業を目指し、JR東海は建設工事を進めている。しかし、静岡県が「待った」をかけた形になっている。これまでの経緯や静岡県の意見書を見ると、リニアに反対しているわけではない。経済問題ではなく「環境問題」だ。
今回の問題はカネではない
静岡県はかつて「のぞみが静岡に止まらないなら通行税を課す」と発言した経緯がある。のぞみは静岡県民に利益を与えず、騒音と振動を残して去って行くからだ。静岡県としては、県内停車列車の増加は歓迎だろう。しかし、前述したように、静岡県はリニアに関しては「水利・環境破壊」を問題にしている。代償は、「JR東海が環境維持に手を付けられないなら静岡県側でやるから費用を出してほしい」という意味だろう。
静岡県はかねてより「静岡空港の直下に新幹線の駅を作ってほしい」とJR東海に要請しており、JR東海は掛川駅に近いこと、トンネル拡幅工事の難しさなどから拒否している。これと「のぞみ通行税問題」を合わせて、静岡県とJR東海の因縁の対決と煽る向きもある。しかしそれは的外れだ。リニアと静岡県の問題は経済問題ではなく環境問題だ。JR東海が仮に山奥にリニアの駅を作っても、のぞみを静岡駅に止めても、静岡県は納得しない。
JR東海は静岡県に誠意ある対応をすべきだ。しかし、誠意とはカネではない。
ただし、「中央新幹線建設工事における大井川水系の水資源の確保及び水質の保全等に関する中間意見書」の前段を読む限り、静岡県側とJR東海の協議は進んでいるように見受けられる。現場はコツコツと取り組んでいるけれど、進捗(しんちょく)に業を煮やしたJR東海社長が「これでは間に合わない」と訴え、静岡県知事が「おたくのせいだろ」と反発した。それだけの話のようにも見える。
愛知県知事が静岡県知事に対して「科学的に議論を」などとけん制しているけれども、本質から外れるからここでは問題にしない。リニア中央新幹線建設促進期成同盟会、中部圏知事会議の参加者は、まず「中央新幹線建設工事における大井川水系の水資源の確保及び水質の保全等に関する中間意見書」を読むべきだ。読まないで意見すれば「ボケかツッコミか分からないヘンなヤツ」と思われるだけだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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