「複々線」にできない混雑路線は、乗客をどうやってさばくのか:理想はあるけど(1/4 ページ)
混雑を緩和させるために、首都圏の鉄道会社はさまざまな取り組みを行っている。そのひとつに「複々線化」がある。その一方で、複々線化を実現できない混雑路線もある。そうしたところは、多くの乗客をどうやってさばいているのか。
小田急電鉄が2018年に代々木上原〜向ヶ丘遊園間の複々線を完成させ、構想50年、工事30年にもわたる複々線化事業を成功させた。その成果は劇的に現れ、混雑率は世田谷代田〜下北沢間で194%から151%へと大きく減少した。快速急行や通勤急行の時間短縮も行われ、町田や相模大野といった都心から離れた郊外からの通勤は楽になっただけではなく、多摩センターからの利便性も増し、複々線化事業は大きな成功を見せた。
だが、多くの鉄道会社はそう簡単には複々線化を大規模に事業化することはできない。関東私鉄では東武が例外的に複々線化を成功させただけであって、その他の私鉄では複々線を長距離にわたってつくることは困難だ。では、東京圏の各社はどうしているのか。
西武鉄道における複々線の明暗
西武池袋線では、練馬から石神井公園までが複々線となっている。練馬からは西武有楽町線を介し、東京メトロ有楽町線・副都心線に入っていく。
石神井公園や保谷始発の列車も多く、そういった列車は複々線の区間を利用して、近距離輸送のために活躍している。
遠方からの列車を優等列車(停車駅の少ない列車のこと)にし、近くの列車を各駅停車にすることで、乗客を分離し、混雑を緩和している。そして押し寄せる乗客の多くを、分担して都心に送り込んでいる。混雑の緩和や利便性の向上などから、西武池袋線の複々線化は成功しているといってよい。
一方、西武新宿線では西武新宿〜上石神井を複々線化する構想があった。地下線をもうひとつつくり、西武新宿・高田馬場・上石神井にだけ停車するというものだった。だが技術上の問題、工事費用の問題、さらには将来の西武新宿線の輸送量減少が見込まれるため、この工事は1995年に無期延期、そして今年東京都により計画は廃止された。
池袋線では短距離の複々線で成功したものの、新宿線での計画は成立しなかった。西武新宿まで複々線にする計画は、なぜ実現しなかったのか。乗り入れ先の地下鉄がなかったこと、新宿線沿線に多く下宿していた地方出身の早稲田大学生が減少していること(最近の早大生は、関東圏の自宅生が多い)、バブル崩壊によって景気が悪化したことなどによってこの複々線化は行われなくなった。
では、現在景気のいい「あの路線」の複々線化はどうなのか?
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