人事部は、AIによって消滅するか?:付き合い方(1/4 ページ)
組織・人事に関わる全ての施策は、日本人の特性や自社の独自性への洞察なしには機能しない。それは、OSが違えば、アプリが動作しないのと同じである。欧米の真似でもない、うまくいっている会社の真似でもない、日本企業において本当に機能する組織・人事の考え方や施策について思索・指南する。
著者プロフィール:
川口雅裕(かわぐち・まさひろ)
組織人事コンサルタント (コラムニスト、老いの工学研究所 研究員、人と組織の活性化研究会・世話人)
1988年株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報および経営企画を担当。2003年より組織人事コンサルティング、研修、講演などの活動を行う。
京都大学教育学部卒。著書:「だから社員が育たない」(労働調査会)、「顧客満足はなぜ実現しないのか〜みつばちマッチの物語」(JDC出版)
AIが、さまざまな仕事に影響を与える時代を迎えた。当然、人事部の仕事にも大きな影響を与えるだろう。既に、採用や人員配置に使おうとしている企業もある。AIの導入が進んだとき、人事という仕事はどのように変わるのか。AI搭載のソフトが、大きなインパクトを与えた将棋界を素材として考えてみたい。
まず、AIが与えた将棋界や棋士への影響、AIによる将棋の変化について、3つ挙げてみよう。
一つ目は、将棋界や棋士がAIに抗うのではなく、受け入れ、AIを上手に利用しながら共存しようとしていることだ。それは、AIとの対決に敗れたからではない。人間の知力や気力や体力には限界があるし、年齢による衰えも必ず訪れるが、それらには無縁のAIはどこまでも進化しつづける。人間が永遠に届かない将棋の真理に、AIは近づいていくのかもしれない。であれば、これまでの勉強・鍛錬の方法を変えて、早めにAIから学ぶようにするのが得策だと棋士たちが考えているからだろう。実力をつけるためには、AIの形勢判断や指し手を(少なくとも人間が考えるよりは)正しいものと捉え、それを模倣したり応用したりできるようになったほうがよいということである。(棋士全員がそうというわけではないが)
もっともそこで、棋士達は問題に直面する。AIがなぜその手を指したのかが、分からないという問題だ。学ぶといっても、思考のプロセスや判断基準はブラックボックスになっており、結果しか知ることができない。例えば、AIは将棋の形勢判断(先手・後手のどちらがどの程度優勢か)を「評価値」として出してくるが、その数値になった理由は分からない。AIは推奨の一手を提示するが、なぜその手が良いのかは分からない。「見て学べ」と言うだけで、奥義や秘けつをいっさい教えてくれない達人のようなものである。したがって、学ぶといっても正確には理解できないので、「AI的な感覚やセンス」を試行錯誤しながら身につけることになり、AIが導いた答とどのように向き合うかが問われる。
二つ目は、プロ棋士の指す将棋そのものが、(素人から見て)面白くなったことだ。AIは、将棋の長い歴史の中で出来上がってきた定跡や常識を見直すきっかけを与えた。AIのおかげで、良しとされていた形や手順が、そうでもないケースもあると分かったし、逆に、悪いとされていたものが、そうでもないというケースも見つかった。新しい攻め方・構え・守り方などが見つかった。人間が考えもしないような手(瞬間的に良くなさそうに人間には思えるが、実は有効な手)も発見された。「王を固く囲うより、全体のバランス」という勝つための考え方まで、変わってきた。それまでの将棋は、整備された定跡にのっとって指されるケースが比較的多く、似たような形、よく見る形というのがあった。それが、AIの指した手の影響によって、格段に多様になった。AIは人間の視野を広げてくれるし、人間を先入観や思い込みから解放し、発想を豊かにしてくれるのである。
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