「エライ人=管理職」をやめようとして大失敗した話:昭和な制度が変わらないワケ(1/2 ページ)
変化の時代に実務を知らないマネジャーは使いものにならない――というのは昨今の定説だが、その問題を解消するのは非常に難しいようで……。
この記事はティネクトのオウンドメディア「Books&Apps」より転載、編集しています。
十年ほど前、システム開発の会社に勤めていたことがあります。
独立系の企業で、社員数は4桁に届かないくらい。SI案件(システム企画から設計、開発、構築、導入、運用、保守までを一貫して担当する案件)とSES案件(技術者の派遣)が大体半々くらい、自社業務と客先常駐も大体、半々くらいという、よくある「昔ながらのシステム開発会社」でした。私はその会社で、主に金融関連のプロジェクトを担当する部署に所属していました。
ある時、その部署で「もう少し、チームリーダーが技術的な業務に集中することができる時間を作ってあげよう」という動きが持ち上がったことがありました。
システムエンジニアをやっている人は分かると思うのですが、一般的なエンジニアのキャリアパスは、コーディングや外部設計などの「下流寄りの業務」から始まり、次第に「上流寄りの工程」、ないしは「マネジメント寄りの仕事」に進む――というのが一つの典型です。「プログラマー」→「システムエンジニア」→「チームリーダー」→「プロジェクトマネジャー」というのが、よくあるキャリアパスの流れであって、上流にいけばいくほど「管理系の仕事」が増えていくのです。
タスクの具体化と細分化、タスクの割り振り、スケジュールの管理と調整、他部署との調整などの仕事配分――といった業務が、技術的な業務を押しのけて増えていくのは、どこの世界でも割とよくある話です。
もちろん、これはざっくりした話であって、「いつまでも技術的な仕事と縁が切れない人」もいれば、「管理職をしながらもきっちりコーディングの仕事を確保している人」もいましたし、フルスタックエンジニアや特定分野のスペシャリストも、いないわけではありませんでした。ただ、少なくとも、その会社では間違いなく、「キャリアが長くて出世した人ほど、管理の仕事のみに時間がとられるようになっていく」という傾向があったのです。
しかし、マネジメントの仕事をする際に技術的な知識が必要ないかというと、全くそんなことはなく、技術トレンドを追えなくなったマネジャーはあっという間に「見当外れな采配」しか振るえなくなりますし、転職の際のつぶしも効きにくくなります。そんな背景から、マネジャーはそれぞれに勉強し、新たな技術トレンドについていこうとはしていたのですが、それがなかなか難しい状況だったのも事実です。
そして、割と昔から「職位が高い人間ほど技術的な実務に携われなくなるのは問題ではないか」という声が挙がっていたことも手伝って、その部署ではなんと、「職位とロール(役割)を分離しよう」という実験的な試みが行われることになったのです。これはつまり、「エライ人=管理職」という、“役割とひも付いた職位”をどうにかしよう、という話です。
いわゆるPMO(プロジェクトマネジメントオフィス:個々のプロジェクトのマネジメントを横断的に支援する部門)といえるほどちゃんとしたチームではなかったものの、「タスクの割り振り、スケジュール管理、部署間調整を専門で行う」というような役割が設定され、そこに人が集められました。
そのチームの中には、まだ入社1〜2年の新人や、新規配属の派遣社員も含まれており、こうした初心者スタッフでもスケジュール管理をしっかりこなせるようにするために、当時、チームのサブリーダーだった私もちょこちょことフォローに入ることになったのです。
一方、プロジェクトの方は、今まで管理業務に忙殺されていた人たちに工数の空きが割り振られ、さまざまな技術的実務が入っていきました。
当時も、また、今、振り返ってみても、この試み自体は、決して悪いチャレンジではなかったと思っています。
いわゆるピーターの法則(組織を構成する人間の全てが自己の能力を進展させ続けなければ組織はいずれ無能化し、機能しなくなるという組織の法則)を打破するためにも、「マネジメント以外で偉くなる道」というのは存在して然るべきであり、そのための道筋としても悪くない試みだと思ったのです。さらに、「新人でもマネジメント業務に触れることができる」のもメリットだと考えたのです。
そして何より、管理職の人たちの中には、「こんな面倒くさいマネジメント業務より、コードを書きたい」と、日常ぶつくさ言っている人たちが山のように存在したのです。
しかし、この記事のタイトルから分かるように、この試みは失敗しました。もう少し正確に言うと、有象無象の抵抗が何となく発生して、最終的にはうやむやのままチーム自体が解散の憂き目に遭いました。
職位とロール(役割)を分けようという取り組みの過程で、一体、チームに何が起こったのでしょうか。
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