「エライ人=管理職」をやめようとして大失敗した話:昭和な制度が変わらないワケ(2/2 ページ)
変化の時代に実務を知らないマネジャーは使いものにならない――というのは昨今の定説だが、その問題を解消するのは非常に難しいようで……。
「エライ人=管理職」をやめられなかった理由
そのチームの仕事は、まず「各プロジェクトから、タスク管理・スケジュール管理・調整の仕事を切り出す」というところから始まりました。
以前はマネジャー職が引いていたWBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)を引き継ぎ、プロジェクトのメンバーに進捗状況をヒアリングしに行き、チケットの進捗状況を集積し、進捗率を計算し、プロジェクト会議で報告し、進捗が思わしくないところには改善策を相談しにいきました。
最初は、「何となくやりにくい」という程度の、ふわっとした不満が出るところから始まりました。
実際のスケジュールの切り方は、私から見ても別段問題があるように思えなかったのですが、重箱の隅をつつくような、普段なら誰も指摘しないような指摘がちょこちょこと出てくるようになったのです。
ヒアリングの際にも、何となく嫌な顔をする人が少なからず出始め、引き継いだだけのWBSに対して、なぜかタスク切り方の文句が出る――というようなことも起こっていました。
「誰が切ったの? このWBS?」
「いや、あなたですけど」
――そんな、笑えない会話すら発生しました。
いつからか「進捗ヒアリングがうまくいきません……」「タスク調整が全然進みません……」といった話がしょっちゅう私のところに来ることになり、本来、チームのメンバーではない私がなぜかフォローに奔走する羽目になる――。そんな状況に陥ったことから、「何でこうなってるんだ?」ということを調べてみることにしました。
無記名のアンケートを作って情報を集めたり、喫煙所で世間話ついでにあれこれヒアリングしてみたりしたところ、もちろん、細かい不満はいろいろとあったわけですが、突き詰めてみると
「コーディングがでるのはいいんだけど、ぶっちゃけ、職位が下のヤツにあれこれ管理されるのはなんか嫌」
――という、言ってしまえば極めて感情的な問題が、その状況の根本的な原因だったのです。
要は、「仕事をする上で、職位や身分の意識を完全に消すことは難しい」ということと、「タスクの遅れを、職位が下の人間に指摘されるのは腹が立つ」という、そこに問題があったのです。
もちろん、全ての管理職がこのような反応だったわけではなく、中にはすんなりとこの制度に順応できた人もいました。「面倒な管理業務がなくなって、とてもうれしい」という人もいましたし、「コーディングに取り組めて幸せ」と、喜々としていう人もいたのです。
ただ、そもそもが実験的な試みだったことと、さまざまな抵抗もあったことから「まぁ、やめようか」ということになり、この取り組みは立ち消えになりました。とても残念なことです。
今、この顛末を振り返ると、失敗の原因は、「“エンジニアの世界における職位についての意識”というものを甘く見積もっていた」というところにあったのではないかと思います。
大筋、エンジニアには「部長−課長−係長」というような「旧来型の組織構造」に親和性が低い人の方が多いであろうことは恐らく間違いなく、組織に属するというよりはプロジェクトに属して働く場合が多いことから、職位についてもある程度“緩い人”の方が多いんだろう、と、私も思ってはいたのです。
ところがそれが「甘い考え」というヤツで、実際には「職位」「上下関係」というものに強い意識をもっている人もたくさんいたし、そういう人の中には「職位が低い者からあれこれ指示が来る」ということ自体に拒絶感を持つ人もたくさん含まれていたのです。
「下のもんに、全体的なスケジュール管理なんてできるか」という意識の人も少なからずいました。
やっていることや仕事の形態が進歩的であったとしても、意識まで進歩的であるとは限らない――。当たり前の話ですが、当時の推進側には、まさにこの認識が欠けていたと考えていいでしょう。
私が考えたこの取り組みの問題点は、
- 「実験的な試み」というような中途半端な立ち位置だから職位の問題が解決できないのでは?
- いわゆるPMOのように、きちんとした管理チームを会社側が定義して、かつそのチームリーダーにはきちんとした職位の人を据えれば、管理される側の抵抗感も薄れるのでは?
- 「管理されることに対する抵抗感」は人にもよるので、チームによって管理チームのサポートを受けるかどうかを任意に選べるようにすればいいのでは?
というもので、それを解決する提案もしてはみたものの、結局、受け入れられないままそのプロジェクトは幕を閉じたのです。
この体験から私が学んだことは次の通りです。
- エンジニアは、「職位」とか「身分」というものを気にしない人が多いようでいて案外、無視できないどころか、実は重要である
- 職位とロール(役割)を分離する際には、慎重に進めないと失敗する
- 「ぺーぺーに管理されたくない」という“抵抗意識の強さ”は侮れない
この出来事があってから、私は「管理する、される」という問題に対して、かなりセンシティブに接するようになりました。今ではずいぶん、柔軟な組織運用ができるようになりましたが、当時は、泥臭い対応しかできなかったなぁ、と思うのです。
「古い日本的な企業のしきたり」と思うようなことでも、その取り扱いは案外、難しいものである――という話でした。
しんざきプロフィール
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書きつづる日々を送る。
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