自動車を売るビジネスの本質 マツダの戦略:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
原理原則に戻ると自動車ビジネスもシンプルだ。商品とサービスに魅力があれば、新車を正価、つまり値引きせずに売れるから中古車の相場が上がり、その結果下取り価格が高いので、買い替え時により高いクルマが売れる。これが理想的サイクルだ。それを実現した例として、マツダの取り組みを歴史をひもといてみよう。
筆者が見る限り、このジャンルで戦略が一番進んでいるのはマツダだ。ただし、戦略を立てれば必ずそれが実現するほど、現実は甘くない。実際マツダも、予定通り計画が推進できず、19年決算の利益率は2.3%と、屈辱的結果に沈んだ。
マツダは12年以来、ブランド価値向上を経営目標に掲げて取り組みを続けてきたが、残念ながら中国と並ぶ世界の2大マーケットの北米で、戦略がなかなか機能していない。結果ブランド価値販売の達成が遅れているのが、悲惨な利益率の原因だ。
今後そこをなんとか改善していくのがマツダの課題だが、福音となるのはすでに先行成功事例として日本国内のマーケットがあることだ。日本と同様のパターンに持ち込めれば、北米ビジネスは回復する。そういうキーとなるマツダの国内ブランド戦略について説明していきたい。
商品力の向上が全ての基礎
過去の推移
まずは1980年代からの振り返りだ。80年代を通して、日本の自動車マーケットは拡大期にあり、車種と販売拠点を増やすことで売り上げを伸ばせた牧歌的な時代である。
日本の景気が頂点を迎えた89年、マツダは5チャネル販売体制によって国内販売100万台を目指した。そもそも5チャネル構想そのものの見通しが甘かった感は拭えないが、狙いすましたように90年にバブルが崩壊すると、国内マーケットは一気に縮小均衡の時代に入る。マツダの拡大戦略は完全に市場動向に逆行して悪夢の様相を呈した。そこからの販売台数の下落幅はピークの3分の2に及び、その対策として販売奨励金、つまり値引きが止められなくなった。
倒産危機に陥った時、フォードの救済が入った。フォードの資本の追加注入で救われたのもつかの間、08年のリーマンショックで今度は親亀のフォードが経営危機を迎え、マツダへの資本は再縮小される。
マツダにとっては本当に背水の陣である。薄氷を履む想いで自力再起を余儀なくされた。フォードと共用化していた部品の使用を事実上差し止められたマツダは窮地に陥り、徹底的な検討を重ねた結果、どうしても8車種を同時に開発しなくてはならなくなった。
グローバルな拠点それぞれで販売主力になるクルマと、メーカーアイコンとしてのロードスターを加えると、その8台はどうしても必要だったが、常識的に考えれば、退職者を募るような経営環境下で、8台の同時開発などマツダの規模でできる話ではない。
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