企業を崩壊させかねない「組織急拡大の壁」問題、Sansanはどうやって乗り越えたのか:成長痛をどう乗り越えるか(3/4 ページ)
社員の増加に伴って、企業の文化や理念が社員に伝わりにくくなり、いつしか社内がバラバラの方向を向いた統合性のない組織になってしまう――。そんな「組織拡大の壁」問題をSansanはどうやって乗り越えたのか。
『逃げずにやりきる』をバリューから外した理由
大間さんによれば、特に議論が集中したのはもともと7つあったバリューのうちの2つ、「やるべきことをやる」と「逃げずにやり切る」だった。
どちらも真摯に仕事に向かう姿勢を促す言葉だが、今、やっていることの正しさを信じて疑わないような視野の狭さを連想させることもある。
「『物事に向き合ったらやり遂げるまでやめない』というのは、もちろん良い面もあります。でも、今、やっていることがミッションの実現につながらないのなら撤退も必要ですよね。僕らは今、非連続な成長を目指しています。これらの価値観が、このフェーズにおいて本当に大事にしていかなければいけないものなのか、ということが議論になりました」(大間さん)
一方で、こういう価値観を大事にし続けたいという意見もあった。部門によっても重視する価値観の傾向は違ってくる。それぞれの意見を聞いた上で、最後には経営メンバーが計8時間ほど議論して結論をまとめた。
「『やるべきことをやる」『逃げずにやり切る』といった言葉は、社員が増えることによって価値観が多様化したこともあり、削除することにしました。議論の上、より今のフェーズに適しているであろうという判断のもと『仕事に向き合い、仕事を楽しむ』という言葉を新たに入れています。
『仕事に向き合う』は『逃げずにやり切る』を言い換えたという面がありますが、それに加えて『仕事を楽しむ』という言葉も入れました。これまでは『楽しむ』というような言葉は使ってこなかったので、ここは結構、大きな議論になりました。僕らはこれから新規事業もやっていこうとしていて、社員には『変化』に積極的になってもらいたいと考えています。ただ仕事に向き合うだけでなく、主体的に、ポジティブな気持ちを持ってほしいという意図で、『楽しむ』という言葉を入れたんです」(大間さん)
一つ一つの言葉が社員にどのように受け止められるか、役員がここまで慎重に時間をかけて議論するのは、Sansanにおいてミッションやバリューの持つ意味がそれだけ大きいということだ。
議論に参加することで、より「自分ごと化」を
Sansanが「カタチ議論2018」を行った背景には、同社が事業上の転換期を迎えているということもある。
「Sansanはこれまで、クラウド名刺管理サービス、つまりビジネスの『出会い』で世界を変えるという目標を持ち、法人向けのSansanと個人向けのEightという2つのプロダクトに集中してきました。ですが、2019年は新規事業開発室を立ち上げ、これらのプラットフォーム上で新たなビジネスを展開しようとしています。社員からすると、『どうして新しいことをする必要があるのか』ということが、すぐには腹落ちしない可能性もあります。
このタイミングで『カタチ議論』をやったのは、議論に参加することで会社のミッションとバリューを“自分ごと”にしてもらいたいと考えたからです。そして、ミッションを実現するためにも、積極的に変化を楽しんでもらいたいという意図で、この機会に『変化を恐れず、挑戦していく』というバリューを加えました」(大間さん)
関連記事
- 元楽天トップセールスが編み出した「半年でチームを自走させる」マネジメント、3つの秘訣
少子高齢化に伴う人材不足が深刻化する中、“今、いるメンバーの力をどうやって最大化する”かが、リーダーの腕の見せ所だ。元楽天のトップセールスマンが編み出した、短期間で自走するチームを作る方法とはどんなものなのか。 - 「上司なし、評価はメンバーがお互いに」 そんな「管理ゼロ」組織は実現できるのか――ネットプロテクションズの挑戦
「新卒の8割が辞める会社」から「新卒入社後3年目までの離職率がゼロの会社」へと生まれ変わったネットプロテクションズが、今度は「管理ゼロ企業」を目指して動き出した。どうやって実現しようとしているのか。 - ANAの改革推進トップに聞く “変われなかった現場”でイノベーションが起きたわけ
国内外の厳しい競争にさらされている航空業界。勝ち残っていくためには、働き方にイノベーションを起こし、顧客本位のサービス開発ができる体制を整えることが不可欠だ。ANAの改革をけん引する野村氏はどうやって現場にイノベーションマインドを根付かせたのか。 - 日清食品HDのIT部門トップに聞く 「変化に強いリーダー」はどうやったら育つのか
これまでの当たり前を疑える目を持ち、社内外からさまざまな情報を集めてくるフットワークの軽さがあり、変化に対応できる柔軟なマインドを持っている――。そんな“変化の時代に必要とされるリーダー”は、どうやったら育つのか。 - 日本郵便の“戦う専務”が指摘――IT業界の「KPI至上主義」「多重下請け構造」が日本を勝てなくしている
先進国の中でもIT活用が遅れている日本。その原因はどこにあるのか――。日本郵便の“戦う専務”鈴木義伯氏とクックパッドの“武闘派情シス部長”中野仁氏が対談で明らかにする。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.