池澤夏樹が『2001年宇宙の旅』からひもとく「AI脅威論」の真実:池澤夏樹は「科学する」【前編】(4/4 ページ)
作家・池澤夏樹の重要な作品テーマの1つ、「科学」。池澤氏は「科学」の視点から小説、日本社会、そして人類の未来をどう見通してきたのか。3回シリーズの前編。
「ブラックボックス化」の先にあるもの
――ただ、科学技術をブラックボックス的にしか見られない私たちにとって、SFのように発達する科学技術の危険性は得体の知れないものです。
池澤: (科学技術が)危険だとしたら、ずっと言われているのは「早すぎる」ことです。産業革命の時の何十倍ものスピードで変わっていってしまう。気が付いた時には戻れないところに行っている。
珍しく戻ったように見えたのは、フロンですよ。これは紫外線を(オゾン層を破壊して)通してしまう。じゃあフロンを止めて代替の物を作ろうと。いろいろあって消えたと思ったら、中国が作っているらしい。
それこそ、便利でもうかるテクノロジーは止まらない。あれだけの事故を起こしても原発は止まらないのだから。この国の運営者たちの倫理観に対して深刻な危機感を覚えます。実にいろんな屁理屈を出してくる。それを科学で反証していかなくてはいけない。
――原発問題も、賛成・反対のどちらの意見も少なからず感情的で、科学を直視していない気がします。池澤さんは日本の原発技術者の能力を高く評価するなど、科学の知識やエビデンスを積み上げながら、「それでも危険だ」と結論付けているのが印象的です。
池澤: そうですね、(原発賛成派は)「都合のいい科学」を作っている。安全でないと困る、ということでしょう。
昨年(2018年)かな、泊原発(北海道古宇郡泊村)を見に行きました。立派なPRセンターがあるんですよ。そこでは「東日本大震災を教訓に直しました。これに対してはこう、それに対してはこうした」などと書いてある。それで全部かな、と。
(福島第一原発は)「想定外」だから壊れたのだろうと思います。福島では「想定外」が「想定内」に入ってきた。それに対しては(泊原発は)全部手を打った。でも、いつだって問題なのは「想定外」なのです。それは確率(の問題)だから、そう言っていたら何も作れず、飛行機も飛ばせない。ただ、飛行機事故と違って、原発では国が亡びるのです。実際にその直前までいった。だから止めた方がいいと思うのですけれどね。僕は、これは感情論ではないと思っている。
――原発問題もAI論も、まさにSFのような世界が本当に到来しつつある中で、どう冷静に科学を「実感」して直視できるのかが問われているのですね。次回は、そうした急激な科学技術の発達に対して、「小説の持つ想像力」がどのような役割を果たすのかについて聞きます。
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