池澤夏樹が明かす作家哲学 「“飽きる”ことも仕事のうち」:池澤夏樹インタビュー【後編】(5/5 ページ)
作家・池澤夏樹の重要な作品テーマの1つ、「科学」。池澤氏は「科学」の視点から小説、日本社会、そして人類の未来をどう見通してきたのか。3回シリーズの最終回――。
それでも逃れられない「産みの苦しみ」
――挑戦し続けるために、自分に課していることはありますか。
池澤: 結局、目の前のプランを考えているだけです。とにかく目の前にアイデアが沸いて、これをどう作品にするのか、取りあえず書きながら考えるだけですよ。エンディングが(あらかじめ)大体分かっていて書いている話もありますが。
僕は今(日経の連載小説)『ワカタケル』を書いています。彼(主人公のワカタケル)はある時点で死ぬからそれで終わるだろう。しかし、そこまでどう膨らますかをあまり分かっていないまま(連載を)始めたけれど、怖かったですね。
半分くらいまでいったところで、「これで何とかなるかな」と。古事記に出てくる人のほかに、サブの重要な登場人物が増えてきて活躍し始めると、面白くなってきましたね。元となる原典から(ストーリーが)離れられるからです。そこまでいって、「ああ、うまくいってるんじゃないかな」と思えました。
そうすると、さあ次の展開はどうするか……。最後にひっくり返したいが、どういう形にするかと。今、ほぼ最後まで頭の中にできています。(連載は)8月いっぱいなので、随分気が楽にはなりましたね。
――池澤さんでも、「産みの苦しみ」というものがいまだにあるのですね……。
池澤: (連載開始した)最初の3カ月くらいは、「まずかったんじゃないの、このアイデアは。1年持たないんじゃないの?」と。悩むというか、「何も出ないなぁ」と、明け方目が覚めて考えるのです。それで、「ああ、こうやればいいんだ」と(アイデアが)出てくるのです。大体いつもそうですね。
――若いクリエイターや仕事に悩む人にとって、むしろ勇気付けられるエピソードですね。ありがとうございました。
関連記事
- 池澤夏樹が『2001年宇宙の旅』からひもとく「AI脅威論」の真実
作家・池澤夏樹の重要な作品テーマの1つ、「科学」。池澤氏は「科学」の視点から小説、日本社会、そして人類の未来をどう見通してきたのか。3回シリーズの前編。 - 池澤夏樹が「人類の終末」を問い続ける意味
作家・池澤夏樹の重要な作品テーマの1つ、「科学」。池澤氏は「科学」の視点から小説、日本社会、そして人類の未来をどう見通してきたのか。3回シリーズの中編。 - 田中角栄からカネは受け取らなかった――田原総一朗が語る「ジャーナリスト人生の原点」
田原総一朗の「ジャーナリスト人生の原点」に迫った。 - ノンフィクション作家・溝口敦が説く 「それでも起業は人生を変える」理由
30年以上、「脱サラ」や起業のドラマを見つめ続けたノンフィクション作家・溝口敦氏に聞く終身雇用「崩壊」時代の働き方と生き方――。 - 【独占】ひろゆきが語る「“天才”と“狂気”を分けるもの」
平成のネット史の最重要人物「ひろゆき」への独占インタビュー。ひろゆきの仕事観・仕事哲学を3回に分けて余すことなくお届けする。前編のテーマは「“天才”と“狂気”を分けるもの」――。 - テレビはなぜ“つまらなくなった”のか 日テレ『世界まる見え!テレビ特捜部』生みの親に直撃
テレビはなぜつまらなくなったと言われるのか。『世界まる見え!』『笑ってコラえて!』などのヒットメーカーに直撃した。実験しなくなったテレビ業界の実情が浮き彫りに。 - 「退職予定者をいじめる」会社には重いツケが回ってくる、意外な理由
退職を表明した途端、上司などがつらく当たる問題。実はひどい対応を取った会社側に深刻なデメリットが発生するケースも。誰も不幸にならない「退職の作法」とは?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.