ノンフィクション作家・溝口敦が説く 「それでも起業は人生を変える」理由:終身雇用「崩壊」時代に送るエール(1/4 ページ)
30年以上、「脱サラ」や起業のドラマを見つめ続けたノンフィクション作家・溝口敦氏に聞く終身雇用「崩壊」時代の働き方と生き方――。
サラリーマンの転職や独立・起業が珍しいものではなくなってきた昨今。財界のトップは相次いで「終身雇用を続けるのは困難」と表明しており、新卒で入った会社を定年まで勤め上げるかつてのキャリア設計は、徐々に崩れつつある。
しかし、今の職場への不満や独立への野望を抱いていても、なかなか新しい一歩を踏み出せない人も少なくないのではないだろうか。フリーランスや起業への道をリアルに考えれば考えるほど、組織に所属するメリットが見えてくることもある。
ノンフィクション作家の溝口敦氏は、そんな劇的な「脱サラ」を遂げてきた人々の人生模様について30年以上、月刊『Wedge』誌(ウェッジ)で連載してきた。6月には、そのうち40人の事例について『さらば! サラリーマン――脱サラ40人の成功例』(文藝春秋)として書籍化した。今の会社にいて上司との人間関係に悩み続けるのか、それとも一念発起して自分のやりたい道で起業するのか――。サラリーマンなら誰もが抱くそんな思いを体現した先達の物語を収録した「独立の教科書」ともいえる内容だ。
自身も2度のサラリーマン生活を挟みつつ、日本随一の「暴力団ジャーナリスト」として活躍してきた溝口氏。インタビューの前編では、暴力団側に脅されたり自身や家族が襲われ重傷を負ったりしてもなお、一匹狼のライターとして彼らと対峙し続けた溝口氏自身の「脱サラ劇」を紹介した(「暴力団取材の第一人者・溝口敦 『刺されてもペンを止めなかった男』が語る闇営業問題の本質 」を参照)。
後編となる今回は、30年以上いろいろな脱サラのドラマを見つめ続けた溝口氏が考える、「サラリーマンを辞める」本当の意味を聞いた。もう独りで歩んでいくことを決めた人、なかなか組織を出たくても決心がつかない人……。そんな読者に送る、77歳の“脱サラジャーナリスト”からのエールだ。
溝口敦(みぞぐち・あつし)1942年東京都生まれ。早稲田大学政経学部卒。出版社勤務などを経て、フリーに。2003年『食肉の帝王』(講談社)で講談社ノンフィクション賞を受賞。ベストセラーの『暴力団』(新潮新書)、『詐欺の帝王』(文春新書)、『溶けていく暴力団』(講談社)、『山口組三国志――織田絆誠という男』(講談社)など著書多数。近著は『さらば! サラリーマン』。暴力団、半グレなど、反社会的勢力取材の第一人者(撮影:山本宏樹)
30年間、起業家を見続けてきた
――溝口さんは月刊『Wedge』誌での連載「さらばリーマン」や、前身の企画「転機」の中で、多くの起業家や脱サラをしてきた人たちに会い、30年以上、執筆をし続けてきました。今回の『さらば! サラリーマン』(文藝春秋)は連載「さらばリーマン」の事例を書籍化したものですが、連載は、いわゆる起業ブームが起きるずっと前からの企画です。必ずしも華々しく成功できた人ばかりではなく、自分のやりたいことと生活との両立に奮闘する、等身大でリアルなドラマも多く登場します。特に印象に残った人は誰ですか?
溝口: 皆さん印象に残っていますが、「何もないところ」から起業を成功させた代表となると、ペットシッターの会社を起業した津山知寿子さん。「何かあるところ」から起業を成功させた人だと、三菱系の重機の会社で定年を迎えた後、竹林の活用ビジネスを考えた佐野孝志さんですね。どれかを選ぶとしたら、この2人です。
――津山さんは23歳で会社を飛び出し、経験もほとんどないまま1人でペットシッター業をオープンしました。一方、76歳(掲載当時)の佐野さんは、仕事で培った技術や知見を生かすことで、「害草」である竹林を竹粉として有効活用するビジネスを定年後に成功させました。起業の在り方や理由1つとってもあまりにも多様ですが、取材してきたこの30年間で、働き方について変化を感じたりはしましたか?
溝口: 私自身も一部、体験として感じてきたことですが、サラリーマン生活をやっていく上で年々、管理が厳しくなってきている。サラリーマンでありながら責任を持たされて、あたかも自分が事業家でもあるような仕事を(会社側に)要求される。そういった締め付けの厳しさもあり、「こんなことなら起業した方がいいや」と思う人が増えたのではないかと思いますね。
サラリーマンであることの困難さや息苦しさは、かなり過度に(企業社会で)及んでいると思います。もちろん非正規の人々も多いわけですが、正社員であってもそういった圧迫感は感じていると思います。ここ10〜20年の間に、その圧迫の度合いは増してきたと感じますね。
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