ノンフィクション作家・溝口敦が説く 「それでも起業は人生を変える」理由:終身雇用「崩壊」時代に送るエール(2/4 ページ)
30年以上、「脱サラ」や起業のドラマを見つめ続けたノンフィクション作家・溝口敦氏に聞く終身雇用「崩壊」時代の働き方と生き方――。
起業すれば「上司の許可」は要らない
――一方で、私たち社会人が「会社を去る」ことへのハードルは、ここ最近で下がったようにも思えます。起業も決して特別な人にしかできないことではなくなりました。
溝口: 株式会社も1円からできてしまう時代ですよね。別に、株式会社の形にする必要も実はないのですが、安易に会社が作れてしまう。サラリーマンは独立しやすくなったと思います。
会社側がリストラを続けることで、古い時代の終身雇用制度を否定するようになってきました。サラリーマンも、江戸時代の「お家」のように、勤めている会社に忠誠心を持たなくてよくなった、とも言えますね。
――必ずしもずっと同じ組織に我慢して居続けなくてもいい、という点は社会人にとって良いことです。一方で、終身雇用が自分の生活を永遠に守ってくれるわけではなく、お金の稼ぎ方や、やるべき事業を自分の頭で考えるよう、突きつけられるようになったとも言えますね。人によってはつらいことかもしれません。
溝口: 「サラリーマンは、気楽な稼業ときたもんだ」と昔、言われていたのは、つまりは「(自分の頭で)考えなくてもいいこと」だったのです。安定した雇用がこの先も続いていくという安心感があったので、「気楽な稼業」といわれていましたが、今はそれがない。
しかしながら、多くの人にとって、自分の行動を自分で考えて決めるということは、僕はそれが本来の「仕事の喜び」だと思うのです。「(自分で)考えなくてはならない」という切迫感が生じる一面もあるかもしれませんが、それを全く苦痛と感じない人も多いでしょう。
自分で(独立を)決定したのだから、事業が失敗して行き詰まり、家族どころか自分さえも飯が食えないといった状況もあり得るわけです。しかし、それは自分で選んだことなのだから、仕方がないと諦めもつく。ライターでも、「飯が食えなくても、水だけ飲んででも(この仕事を)やってやるぜ」という人がいるわけです。(独立・起業を)やるからには失敗しない方がいいけれど、何より自分の進路を自分で決められるという点が、まず僕にとっては大きいですね。
また、起業した人が「自分で考えなくてはいけない」ということは、「1人で判断ができる」ということでもあります。会社に勤めている多くの人が、相当な時間を会議に費やされていると思います。起業すれば会議をしたり上司の許可を得たりする必要もない。短時間で物事を決定できます。
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