吉本興業がテレビ業界から干される日:専門家のイロメガネ(4/7 ページ)
不祥事で謝罪会見を行えば、ある程度、トラブルは鎮静化するものだが、「グダグダ」「意味不明」と批判された会見によってさらに報道はヒートアップ。今後の吉本は、テレビ局各局から「干される」可能性すらある。そしてその動きはすでに表面化している。
ベテラン芸人が引き取って幕引きという意味不明の議論
弁護士と元ヤクザという、バックボーンが真逆の人物がほぼ同じ見解を披露し、テレビ局もその見解通り吉本に厳しいスタンスを表明している。そして芸能界に無関係な筆者も同様の見解だ。
この状況で、唯一ぽつんと取り残されているのが吉本の経営陣で、ビジネスの常識から完全にズレた位置に立っていることが分かる。筆者は、辞任が責任を取る方法であるという常識に常々違和感を覚えていたが、現在の経営陣が果たして経営の改善を行うことができるのか。大株主であるテレビ局各社は、現経営陣による改革を認めるのか。吉本がウソをついた二人の芸人を信用できないように、テレビ局はグダグダの会見を行った吉本の経営陣を信用できるのか?
現在は、「謹慎中の芸人をベテラン芸人が引き取る」といった意味不明な話が出ている。それがさも最善の解決方法かのように一部では報じられているが、吉本に直接・間接的に関わる事務所に、謹慎中の芸人が移籍したところで状況は何も変わらない。
信頼されているベテラン芸人が、「これ以上ケンカはやめよう、誰も得をしない」と仲裁することで、実際トラブルは収まるかもしれない。人気芸人の名前を挙げて、この人が解決してくれればと願望を語る記事も多数目にする。確かに、何を言うかよりも誰が言うかが重視される場面があることは否定しない。
しかしこれは、法令順守=コンプライアンスを無視したトンチンカンなやり方だ。ウチワのトラブルを解決するにはそれでもいいかもしれないが、ビジネスは多数の取引先が関わる。そのような解決をすれば、取引先からコンプライアンスの壊れた会社としてそっぽを向かれるだけだ。今のご時世にこのような説明が必要な状況にあきれてしまう。
そして本来は芸人を「マネジメントをする側」である吉本とその経営陣が、芸人から「マネジメントされる側」であるかのように、多くの人から(芸人も含めて)見られている時点で、吉本はすでに当事者能力を失っている。当初は「会長が辞めるなら自分も辞める」とまで言い「事務所側」の立場と指摘されたダウンタウンの松本氏も、吉本がウミを出しきって改善されないのなら芸人を引き連れて出ていく、と発言している。
会見の余りのひどさに、ここまでいわないとまともに対応しないのではないか? という疑念が生まれたようにも見て取れる。すでに現在の経営陣が問題を解決できるとは誰も思っていないのではないか。
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