吉本興業がテレビ業界から干される日:専門家のイロメガネ(5/7 ページ)
不祥事で謝罪会見を行えば、ある程度、トラブルは鎮静化するものだが、「グダグダ」「意味不明」と批判された会見によってさらに報道はヒートアップ。今後の吉本は、テレビ局各局から「干される」可能性すらある。そしてその動きはすでに表面化している。
家族発言から透けて見える経営陣のDV体質
5時間半に及んだ会見ではおかしな回答が多数あったが、繰り返されたのが「家族・ファミリー」という発言だ。これはうそやごまかしではなくおそらく社長の本音だ。
ファミリーや家族は一般的には良い意味で使われるが、「関係の壊れた家族」ならばどうか。分かりやすいのは、家族間で暴力や暴言が発生するDV(ドメスティック・バイオレンス)だ。子どもに殴る蹴るの暴行を振るう親でも、道端ですれ違った他人を突然殴ったりはしない。警察に通報されるからだ。
しかし家族ならば、一発や二発殴ったからといって即警察沙汰とはなりにくいだろう。つまりDV加害者は相手によって暴行していいかどうかを判断している。家族なら殴っても大丈夫、蹴っ飛ばしても警察沙汰にはならない……。これは家族だからこそ発生する究極の甘えだ。
吉本の経営陣にとっての家族関係は、DV的なものか、そうでなかったら「誰のおかげでメシを食えてるのか?!」と無意識に言い放つような壊れた家族関係なのだろう。
そしてこのような「家族関係」が推測ではなく、実際に吉本と芸人の間に存在していることを、会長がインタビューで明言している。芸人と契約書は交わさないが、外部企業とは契約書を交わすという。つまり家族には冷たく、家族ではない外部とは通常の取引をしている。
「吉本は長年、諾成契約という口頭による契約を交わしてきた。紙の契約書はないが、契約は存在する。法的にも問題なく、今後もこの契約方法は変わらない、芸人がテレビや映画に出演したり、書籍を出したりする時は、相手の会社と書面で契約を交わしている」
「例えば、明石家さんまに、契約書作るで、なんていったら、彼はおそらく、何を今更、そんな水くさいことを、大崎さん頭おかしいんとちゃいますか、と笑い飛ばして終わりだろう」
吉本興業会長「反社会勢力との決別徹底」 闇営業問題 日本経済新聞 2019/7/13
意図的ではなく感覚的に、しかも昔からの慣習だからと深く考えず、問題を指摘されても自分達と芸人の家族関係だからと無視をする。そして公取委のような公的機関が出てきてやっと態度を改める……。
「社長の言葉づかいは昔から乱暴だ」とダウンタウンの松本氏は指摘し、自身のマネージャー時代には注意をしたほどだという。芸人との契約から言動まで、経営者のDV体質は何十年も前から培われたもので、ちょっとやそっとでは変わらない。乱暴な対応をファミリーという言葉で誤魔化し、タチが悪いことに誤魔化している自覚すらない。今後吉本はあらゆる取引先と謝罪や関係改善の交渉をすることになると思うが、経営者のDV体質は最大の障害になるだろう。
関連記事
- 「テレビ局が株主だから大丈夫」宮迫・亮の謝罪会見に見る、吉本興業の深刻な勘違い
宮迫・亮の謝罪会見で注目されたのが、「在京5社、在阪5社のテレビ局は吉本の株主だから大丈夫」といわれた、という発言だ。これは吉本が「テレビ業界の子会社」のような位置づけに近いことを意味する。事務所を辞めるべきは芸人なのか、それとも事務所幹部なのか? そして甘い対応をすれば、テレビ局にも責任が発生する可能性もあるのではないか? - テレビ局が吉本興業を出入り禁止にすべき理由
吉本興業の芸人による闇営業。この事件で最も重要なことは、事務所のあずかり知らない所で所属芸人が詐欺集団の会合に参加したことであり、芸人をマネジメントすべき吉本興業がそれを防げなかったことだ。本来研修を受けるべきは芸人ではなく、吉本興業の経営陣ではないのか。 - ミニ入江は身近にいる カラテカ入江氏の闇営業トラブルに見る「紹介」の怖さ
お笑い芸人のカラテカ・入江慎也氏の「闇営業」をきっかけに、芸能界が揺れている。入江氏の勘違いは、紹介は引き合わせた双方に責任が発生する重大な仕事であるということだ。ミニ入江のようなおかしな人物も決して珍しくない。人を紹介すること、仕事を紹介すること、そしてそれを引き受けることはそれなりのリスクがある。 - 中国で受け入れられた信用スコアは、なぜ日本で炎上するのか?
筆者の育った中国では、スコアリングが当たり前のように行われ、多くの人がそれを受け入れている。そこで先行してうまくいっている中国の事例を紹介し、日本はどのような対応をすべきか考えてみたい。 - わたし、定時で帰れるの? 残業を強制できるラインはどこか
ドラマ『わたし、定時で帰ります。』が話題になる背景には、多くの人にとって定時で帰れず残業が当たり前の状況があります。本来、残業をせずに定時で帰っていいラインとはどこにあるのでしょうか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.