吉本興業がテレビ業界から干される日:専門家のイロメガネ(7/7 ページ)
不祥事で謝罪会見を行えば、ある程度、トラブルは鎮静化するものだが、「グダグダ」「意味不明」と批判された会見によってさらに報道はヒートアップ。今後の吉本は、テレビ局各局から「干される」可能性すらある。そしてその動きはすでに表面化している。
吉本興業がテレビ業界から干される日
謹慎中の芸人が多数いる状況で、一人が副業先から解雇されたから一体なんだ? と思われるかもしれないが、恐らく今回の騒動で反社条項(あるいは暴排条項)が正式に適用された最初の事案ではないか。入江氏の契約解除は元々契約書がないため、何が理由でどのような契約に基づいて解除に至ったのか不透明だ。
現在ツネ氏は吉本から無期限謹慎の処分を受けているが、契約解除には至ってない。つまり吉本は、すでに特定の会社から反社条項に反して解雇された芸人と契約を結んでいる可能性がある。
なお、これはツネ氏に問題があるかどうかという話をしたいわけではない。今後は吉本と取引のある多数の企業が、不動産会社と同様の対応をする可能性がある。前述の通り、日本テレビは一連のトラブルについて書面での申し入れと回答を求めている。今回の記者会見のように、再度対応を間違えば取引先が一斉に離反する可能性がある。果たしてそこまで追い詰められている状況だと、吉本の経営陣は理解しているのだろうか。
先日の記事『「テレビ局が株主だから大丈夫」宮迫、亮の謝罪会見に見る、吉本興業の深刻な勘違い』では、テレビ局が吉本に最も苛烈な対応をする場合のシナリオとして以下のように書いた。
『テレビ各局が臨時株主総会の開催を要求し、全員クビにしてテレビ局から代わりの役員を派遣する。実質的に「テレビ業界の子会社」となった吉本は、契約書の管理から始まって過去の闇営業の税金支払いなど法的な問題を一掃させる。
何年かかけて経営改革を徹底的に行って吉本を復活させ、その間に吉本芸人はテレビ局と個人で出演契約(つまり公然の闇営業)を結んで乗り切る……』
会見前だったこともあって「妄想かもしれないが」と予防線を張った上でこのように書いたが、現状では妄想どころか現実味を帯びてきている。
一番悪いのはウソをついた宮迫・田村の両氏ではないのか? と考える人には納得のいかない話に感じたかもしれないが、これは別々の話だ。例えば宮迫氏が契約を解除された上で、現経営陣も総退陣、といったケースもあり得る。もちろん双方が残る可能性もあるだろう。
ここまで記事を書いたところで、吉本が一部芸人の謹慎を解除するのではないか、という報道が入ってきている。日テレから書面で回答を求められている状況で、あまりに拙速ではないのか。このような対応自体がトラブル解決に努めていないと見なされる可能性すらある。
芸能界は特別な世界といわれるが、実際には自動車業界も不動産業界も、どの業界も個別の事情、特別な事情を抱えている。そしてそれらと一切関係なく、全ての企業が守るべき大前提としてあるのがコンプライアンスとガバナンスであり、暴力団排除条例など反社会的勢力の排除だ。
各種メディアも吉本芸人に突撃インタビューをするなど、話をしにくい立場の人にマイクを向けて芸能ニュースを量産する前に、コンプライアンスやガバナンスの観点からより厳密にこの問題を報じて解決のために必要な報道を行うべきではないのか。
今後も各社の対応に注目したい。
執筆者 中嶋よしふみ
保険を売らず有料相談を提供するファイナンシャルプランナー。住宅を中心に保険・投資・家計のトータルレッスンを提供。対面で行う共働き夫婦向けのアドバイスを得意とする。「損得よりリスク」が口癖。日経DUAL、東洋経済等で執筆。雑誌、新聞、テレビの取材等も多数。著書に「住宅ローンのしあわせな借り方、返し方(日経BP)」。マネー・ビジネス・経済の専門家が集うメディア、シェアーズカフェ・オンライン編集長も務める。お金より料理が好きな79年生まれ。
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