新型タントデビュー DNGAって一体なんだ?(前編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
トヨタの弱点は、小型車におけるコストパフォーマンスだ。新興国で最も求められる「良品廉価」という競争軸では全く勝てる見込みがない。そんな中で、「良品廉価」の経験を生かし、特にASEANにおいて、グローバルな小型車でマーケットを取りに行くのがダイハツのミッションだ。そこでダイハツはDNGAによって、少ないリソースで軽自動車とグローバルな小型車を同時に高レベルに仕上げることを目指した。
経済学にはパレートの法則という考え方があって、別名2:8の法則ともいわれる。例えば売上の8割は2割の商品が生み出しているというようなことで、クルマの基本性能を決める部分も原則的にはこれに近い。重要な部分をピンポイントで抽出して、その基礎設計にコストをかけて固定し、その他の部分を変動させる。これをスケーラブルに展開することができれば、同じ設計手法で3つのクラスを同時に開発し、人的にもコスト的にも負担を減らすことができる。「コモンアーキテクチャーとは固定と変動だ」と、トヨタもマツダもいうのはそういう意味だ。
敵の全軍を相手に正面攻撃を掛けるような消耗戦を避けようと思えば、まずピンポイントで敵将を倒したい。そして「敵将を射んとすればまず馬を射よ」。そうやってたどっていくと、実は固定部分はそう多くはないのだ。
クルマの様な複雑な製品は、あらゆる部品が相互に関連している。いくらキモとなる部分を絞り込んだとしても、その仕様数値を決めるのは大変だ。しかも要素数は掛け算。組み合わせは膨大だ。しかもそこに3つのクラスを持ち込んで、その順列組み合わせが、どれにも共通して良い結果を出せる最適な公約数を見つけ出さなくてはならない。
この過程で大きな役割を果たすのがMBD(モデルベースドデベロップメント)であり、モデル化した要素の天文学的な組み合わせパターンをスーパーコンピュータで解析する。
逆にいえばコモンアーキテクチャーが可能になったのは、パレートの法則どおり性能に支配的な重要要素を抽出し、順列組み合わせの総当たりができるところまで要素数を減らせたためだ。それらをコンピュータで処理できるようにモデル化し、理想値を計算で求められるようになった(何しろ、それまでは見当で試作部品を何種類か作って実験していたので、大中小の中でベストなのが中だとしても、本当の理想は中と大の間にあったかもしれなかったのだ)。
そしてスーパーコンピュータによるシミュレーションによって、天文学的な総当たり計算を短時間で処理できるようになったからでもある。
ダイハツはDNGAによって、少ないリソースで軽自動車とグローバルな小型車を同時に高レベルに仕上げることが可能になった。それはトヨタアライアンスにとって大きな収穫だといえるだろう。
さて後編では、DNGAの行き先を決めるダイハツのリブランディングと、具他的な設計の話へと進めていきたい。
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