「賃金上げたら日本は滅びるおじさん」の言っていることは、本当か:スピン経済の歩き方(3/5 ページ)
「最低賃金の引き上げ」問題をめぐって、議論がヒートアップしている。「日本の低賃金にメスを入れるべき」という声がある一方で、「世紀の愚策」などと猛烈に難癖をつけている人たちも。この問題、どちらに説得力があるのかというと……。
「賃上げ=悪いこと」は印象操作
どっちのおじさんが正しいのか、というのはさまざまな意見があるだろうが、ここまでの両者の言い分を聞いてみると、個人的には「賃金上げると日本は滅びるおじさん」の主張はかなり強引な印象を受ける。
賃金を上げると倒産企業と失業者がウジャウジャ出るというのは、世の中の中小零細企業の経営者は、会社を成長させることができず、倒産を待つだけの人という前提に立っている。また、労働者に関しても、これだけ「深刻な人手不足」の世に再就職ができないことになっている。冷静に考えると、かなりムチャクチャな「未来予想図」なのだ。
また、賃上げ亡国論者がよく根拠とする「韓国」の話もかなり怪しい。ダイヤモンドオンラインの記事「最低賃金を引き上げても日本経済が韓国の二の舞にならない理由」の中で詳しく述べたが、韓国は大企業の賃金の半分程度しか払わない中小企業が、日本の倍近い割合で世に溢れている「中小企業大国」なのだ。
そのようにもともと中小企業が強いところに加えて、低賃金でも働く若者がいくらでもいる。財閥系企業がすべてを牛耳る「超格差社会」なので、「勝ち組企業」に潜り込むことができなかった多くの若者たちは、中小企業経営者に言われるままの低賃金でコキ使われるか、高学歴ニートなどになるしかない。このあたりの労働市場の構造的な格差が韓国の失業率を高めている、と韓国労働研究院も分析している。
こういう韓国の構造的な問題には一切触れず、「賃上げした後に失業率が上がった」という点だけで鬼の首を取ったかのように騒ぐのは、「賃上げ=悪いこと」というゴールへ向けた「印象操作」と言わざるを得ない。
そこに加えて、筆者が「賃金上げると日本は滅びるおじさん」をあまり信用できなのは、彼らが「経営者目線」で物事を考えているからだ。
「それの何が悪い! 経営者だからこそ日本経済のためになることが言えるんだろうが!」とキレる経営者も多いかもしれないが、歴史を振り返れば、経営者たちが「このままでは会社が潰れる!」「雇用を守るためにも事業支援を」とか騒いで、それを真に受けた政策をするとロクなことになっていないのである。
分かりやすいのが、「外国人労働者」だ。
実は日本では今年から始まった「外国人労働者の受け入れ拡大」よりもはるか以前、80年代から「留学生」「技能実習生」なんて名目で、大量の外国人労働者をじゃんじゃん受け入れている。なぜかというと、低賃金労働に依存する業界の経営者が「外国人労働者を入れてくれないと日本経済はおしまいだ!」と大騒ぎをしたからだ。
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