職業人生で、「キャリア・アンカー」を意識することは重要だ(2/2 ページ)
米国の心理学者、エドガー・シャインが提唱した有名な「キャリア・アンカー」は、職業人が自らのキャリアの形成・選択を考える際に、もっとも大切にしたい価値や欲求のことを言う。ちなみに、アンカー(anchor)は船の錨(イカリ)のことで、“動かせない点”といった意味である。
これら10個の、どれにどの程度の価値を見出して(大切にして)高齢期を生きるか。エイジング・アンカーの自覚は、人生100年時代の長い高齢期を充実させるために、極めて重要である。アンカーを自覚することによって自分なりの理想的な暮らしがイメージできるから、現状に対して満足か不満足かの判断でき、問題や対策が発見できる。自分なりの高齢期の充実を図るには、どうすればよいかを考えるきっかけになる。これは、何となく現役時代の延長で高齢期を迎えてしまい、価値や欲求について考えるきっかけを持たず暮らしていく人たちとは大きな違いである。
もちろん、10の中のどれを重視するのが良い・悪いという話ではない。それぞれが生きてきた人生も違えば、今置かれている環境も違うし、これからどのように暮らし、どのように死にたいかという希望も違っているからだ。また、年をとればとるほど人は多様になっていくから、どのアンカーが高齢期の幸福に寄与しやすいかを一様に語ることはできない。たった一つのアンカーを選ぶ人もいれば、3つ、4つと選択する人もいるだろうし、環境の変化や身体的変化によって、アンカーが変わっていくこともあるだろう。そういう意味では、柔軟に、気楽に自分の高齢期の暮らしについて考える材料にしていただければよい。
高齢者自身にとってだけではなく、次世代、子供世代にとってもエイジング・アンカーを理解しておくことは意味がある。高齢の親がどう生きるかは、離れて暮らす子供たちの大きな関心事(心配事)になっていて、本来は親子の間で十分な対話が求められるが、一般に物理的・心理的距離感から、しっかりと踏み込んだ内容の対話がなされている状況とは言いがたい。そんなとき、エイジング・アンカーを両者で見ながら対話に臨めば、いくぶんかでも親の気持ちや状況が分かりやすくなるだろう。また、子供世代も50歳代も後半になってくれば高齢期を意識し始める。いつか訪れる高齢期をイメージし、少しづつでも準備を進めるためにエイジング・アンカーはよい示唆になるはずである。 (川口 雅裕)
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