400万円オーバーのBセグメント DS3クロスバック:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
一般に高級ブランドというものは、長い歴史があり、ブランド論がとやかく言われる前から「高級品」として世の中にイメージが共有されているものである。DSは2010年代という、技術もマーケティングも高度に発達した時代にこれに挑もうとしている。そこは大変興味深い。DS3クロスバックがこれにどう挑むのか。
あとは走るとどうかだ。傾いたデザインでほれ込んだ客を、がっかりさせない仕上がりになっていないと、顧客の期待を裏切ってしまう。
試乗してそれを検分した結果としては、とても穏やかで良いクルマだと思った。とがったルックスに反して、ほぼ全てが素直できちんとしている。タイヤの転がりだしのトルクマナーも、低速での乗り心地も、高速の荒れた路面でさえ、落ち着いた振る舞いを見せたのには正直驚いた。
ハンドリングもしみじみと良い。これ見よがしなアジリティ(敏捷性)を求めるなら別だが、どこまでも自然で気にならない。乗り心地とハンドリングに関してはミシュランタイヤの恩恵は大きいと思うが、資本関係的に縁が深いとはいえコストの高いミシュランを選択することも含めてメーカーの意思である。
例によって、PSAの持病である右ハンドルのペダルレイアウトの問題はやはり積み残されている。PSAに対してこの問題をいくら言い募ったところで、おそらく抜本的な改善はされないだろう。それでも少し改善の跡は見られる。が、そういう会社の製品なので、ペダルのオフセットが気になるかどうかはもう試乗して個人として許せるか許せないかで決めるしかない。
さて、DS3クロスバック、一番下は何もついていない299万円からスタートで、最上級は404万円。SUVとはいえBセグメントだと思うと正気の値札ではない。404万円ならスズキのスイフト・スポーツを2台買ってお釣りが来る。だがそんなことを考える人が買うクルマではない。ちなみに広報氏曰く、「フェラーリオーナーの奥方が、一目惚れでこれを買って、何気なく乗った旦那さんが『あれ? これ意外にいいじゃない?』みたいになると良いなぁと思っています」。
それって一体何台売る気なんだろうと思って尋ねると、「いや台数目標なんてないです。DSのディーラーって日本国内でまだ12店舗なんですから」。
【訂正:初出でDS販売店舗数が古い数字でした】
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。
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