EVへの誤解が拡散するのはなぜか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/6 ページ)
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。
21日、ITmedia Newsに「電気自動車の世界市場予測 2年後にHVなど抜き主力に」という記事が掲載された。「THE SANKEI NEWS」からの転載記事だ。短いので全文を引用する。
調査会社の富士経済は20日、電動車の世界販売台数予測について、電動モーターのみで動く電気自動車(EV)が、ガソリンエンジンと併用するハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)を令和3(2021)年に抜いて主力となるとの見通しを発表した。17(2035)年には2202万台と、現在の17倍にまで急成長するという。
従来はPHVが最多になるとみられていたが、中国や欧州などでの政策誘導や技術の進展でEVの伸びが急加速すると予想。日本の自動車メーカーが得意とするHVも増えるもののEVには後れをとる見込みだ。
今回の予測で17年のPHVの販売台数は1103万台と、昨年予測の1243万台より伸びが鈍化。一方、HVは昨年予測の420万台から785万台に上向いたほか、EVは1125万台から2202万台へ倍増した。
記事そのものはいわゆる「ストレートニュース」といわれるもので、媒体の見解や論評や考察を含まない単純報道の形になる。「そのように富士経済がいっている」ことを伝えますよという形だ。
そして、この記事を何の先入観もなく普通に読むと、再来年にはEVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取ると読める。読み手が受ける印象は「日本沈没のXデーはもはやカウントダウン」だ。そう受け取った読者は多いのではないか? まずは安心してほしい。再来年に日本が沈没する可能性はゼロだ。
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