タニタの「社員を個人事業主化」改革が日本で普及した際の“致命的な弊害”とは:“いま”が分かるビジネス塾(2/3 ページ)
タニタが「社員の個人事業主化」を打ち出している。筆者は仕事への意識を変える効果があると評価。一方、日本で普及した際は大きな弊害があると説く……なぜか?
仕事意識、抜本的に変える
サラリーマンは労働者として法律で保護される立場であり、あらゆる権利が最初から保証されている。給料は自動的に毎月口座に振り込まれるので、自身にいくらの価値があるのか意識する機会は少なく、税金や社会保険料の金額についても無頓着な人が多い。厚生年金保険料の半分は実は会社が負担しているという事実さえ知らない人もいるだろう。
個人事業主になれば、自分の価値はいくらなのか、常に意識せざるを得なくなるし、納税や社会保険の手続きは全て自分で行う必要があるので、否が応でも諸制度に詳しくならざるを得ない。タニタにおいて独立を果たした26人は、会社員という存在が、いかに手厚く守られた存在なのか再認識したはずだし、逆に言えば、会社員の時代からこうした現実をよく理解していたからこそ、社内独立が可能だったと見なすこともできるだろう。
個人事業主として独立することで、仕事に対する意識を抜本的に変えるというタニタの手法が、大きな効果を発揮するのは間違いない。
一方で、この手法には危うさも見え隠れする。
法の守護から「自己責任」の世界へ
過去にも似たような手法を導入した企業は存在したが、コンサルティング会社など、専門性の高い業種が中心だった。タニタは一般的な事業会社ではあるが、独立した26人は高い能力や専門性を持っている可能性が高く、会社としては逆に手放したくない人材であると考えられる。しかしながら、このやり方をあらゆる業種や職種に適用するということになると話は変わってくるだろう。
日本には形式上、欧米各国と同レベルの労働法制があり、ブラック企業が行っているような働かせ方は、本来なら全て違法となる。既存の労働法制が遵守(じゅんしゅ)されていれば、働き方改革関連法など、本来、必要のないものだが、現実に労働法制はほとんど守られておらず、依然としてブラック労働が横行している。日本という国は形式的に法律が存在していても、実質的には機能しないケースが多く、その点において、他の先進諸国とは決定的に違っているのだ。
こうした環境で、多くの社員を、法律で守られた労働者から、全てが自己責任となる自営業者に転換させた場合、どのようなことが起こるだろうか。
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