なぜ日本企業は「セコい不正」をやらかすのか:スピン経済の歩き方(3/4 ページ)
日本企業のセコい不正が後を絶たない。品質検査データをイジったり、燃費データを補正したり、最近はそのセコい手口が消費者まで拡大されている。その背景に何があるのか。スゴ腕弁護士が分析したところ……。
社外取締役という「外部の目」に疑問
ただ、そのようなメンタリティこそが、最近の企業不祥事を増加させている要因だと河合氏は指摘する。
「私利私欲型の不正は、その欲深い個人をどうにかすれば解決できますが、サラリーマン犯罪は“会社のため”という大義名分があるので同じような不正に手を染める者が次々と現れて、より組織的、より巧妙な手口となって最終的には犯罪集団のようになってしまう。その典型的なケースが東京電力です」
実は河合氏は、東京電力のことをよく知っている。東日本大震災が起きるはるか以前から「反原発」を掲げて、原発停止を求める集団訴訟に主体的に関わっているからだ。
「私が原発訴訟に関わり始めた25年前の東電は、資源小国の日本で『安心・安全』が売り文句の原発を推進するのは当然だ、と奢(おご)りに奢っていました。地域独占、総括原価方式でもうけ、巨大な発注をするので、各地の営業所長は“殿様”のようにチヤホヤされていましたし、経営陣も文化や芸術に造詣の深い教養人が多かった。いかにコストを減らし、いかに利益を上げるかという、経営者の二大努力をしなくてもよかったので、教養を磨く余裕があったのです」
そのようなエリートサラリーマンたちの「奢り」が、福島第一原発事故という「人災」を招いたのは周知の事実だ。
政府の地震調査研究推進本部の長期評価に基づき、最大15.7メートルの津波が襲う可能性があるという試算が3年前に社内で行われていたにもかかわらず、それを握りつぶして、対策を先送りし、その先送り期間中にあの事故は発生してしまったのだ。
この不正のトリガーになったのが、「今だけ、カネだけ、自分の会社だけ」というサラリーマンならではの保身であることは疑いようがない。
それでは、巨大組織を蝕(むしば)んで取り返しのつかない被害を招く“サラリーマン犯罪”をどうすれば未然に防ぐことができるのか。一般的には、経営の中に、社外取締役という「外部の目」を入れることで、コーポレートガバナンスを強化する考え方もあるが、河合氏によれば、これはあまり効果がないという。
「事前になんのレクチャーもなく、いきなり取締役会に出席して、その会社の不正や不適切な運営方法を指摘しろ、なんて言われてもできるわけがありませんよ。そもそも、社外取締役は報酬も社内取締役の10分の1程度で、調査権もなければ会社に椅子もないわけですから。残念ながら、社外取締役でコーポレートガバナンスを担保するのは日本では根付かないのではないでしょうか」
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