変化の時代に日本企業が対応できないのはなぜか 製造業の成功がもたらした“落とし穴”:【対談】留目真伸氏×本田哲也氏(前編)(3/3 ページ)
社会の状況がめまぐるしく変化する中、いかに非効率的な働き方を変え、生産性を高めるかが企業にとって大きな課題となっている。そんな中、仕事を進める上で重要な「組織」や「チーム」をどう変えていくべきなのかを、数々の大企業を経て現在は新産業の創出に取り組む留目真伸氏と、PRの専門家として活躍する本田哲也氏について語ってもらった。
なぜ日本企業は変化に柔軟な対応ができないのか
――お二人とも課題に合わせて柔軟なチーム作りをされているわけですが、そうした対応が難しい企業も多いです。その原因はどこにあると思われますか。
留目: まず考えられるのは、多くの日本企業、特に大企業は「製造業」的な感覚から抜け出せていないということではないでしょうか。製造業では、うまくいったビジネスに関しては、オペレーションを定着させることで効率を上げていこうとします。そこにアサインされる人員は、基本的にその作業に「慣れた人」が中心になり、結果的にチームは固定化していきます。
これはこれで、確かに理にかなってはいるのですが、それは「工場」での理論です。今、世の中で求められているのは、社会の課題を見つけ出して、切り出し、自分たちの事業の中にどう割り当てるかを考えて、解決策を実践していくことです。こうしたことをやろうとする時、従来の製造業的なマネジメントスタイルは合わなくなってきています。
本田: 高度成長の時代に日本の製造業が世界を席巻したこと自体は、すごいことなんですがね。ただ、製造業発想での成功体験が多かったことが、マネジメントの発想を凝り固める一因になっているようにも感じます。
これまで数百社の企業に関わって仕事をしてきましたが、多くの企業の経営陣に、とにかく「内製しなければいけない」「抱え込まなければならない」という発想が根強くあるのに驚きました。
留目: 過去には、新たなノウハウを自社に取り込んで習熟していくことが競争力になり、差別化の源泉になっていたというのもありますね。しかし、その意識を変えるのが難しい。
今求められているのは、世の中の変化に合わせて、次々と生まれる課題を新たに定義し、フレキシブルにチームを作ってそれを解決する――という取り組みを繰り返すことだと思います。変化のスピードが増し、現場の課題、世の中の課題が多種多様に広がっている現在では、それが差別化の源泉になるはずです。
本田: そもそも「内製」が競争力の源泉になるのは、人材が流動しないという前提がある場合ですよね。大手企業でさえも「終身雇用は維持できない」と明言している時代に、ノウハウを注入した社員が自社を辞めないと考えるのは現実的ではない。
留目: 企業が「内製」や「抱え込み」を重視する背景には、もともと決まった市場があり、その中で競合他社とパイを取り合うという認識が前提とされていることも大きいのではないでしょうか。そうした状況では、他社よりもリソースを多く集めることに価値があったはずですから。
しかし、現実には、その前提となっていた市場そのものがなくなってきてしまっている。ならば、新たな市場を見つけ、育てていかねばならないはずなのですが、過去の前提に対する思い込みが強いせいで、企業活動がそうした新たな方向に向かいづらくなっているというのはあると思います。
本田: 「決められた土俵の中での差別化や食い合い」に固執しているというのは、私も感じますね。広告や商品開発においても、嫌というほど、競合のことを気にする傾向があります。それが進みすぎると、だんだんと、サービスの受け手や消費者が不在の「競合だけを見た差別化」に落ち込んでいきます。
「マーケティング」には、本来「市場創造」の意味が含まれているのですが、新たな市場を創り出すことをせずに、「食える土俵」ありきの考え方から抜け出せていない。それが、日本企業が市場創造を苦手とする、大きな原因のようにも感じます。
留目: 昔「米国に追いつけ、追い越せ」というスローガンがあったように、かつての日本企業には目に見える「お手本」があって、それを目指すことができたんですよね。でも、今は「お手本」がなくなった。そのせいで目標を見失ってしまっているというのも、大きいように思いますね。
(後編はこちら)
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