「世界一真面目な労働者は日本人」と触れ回っては、いけない理由:スピン経済の歩き方(4/5 ページ)
またしても日本の「働き方」のクレイジーさを物語る残念なデータが出てきてしまった。日本を含むアジア太平洋地域14の国・地域を対象にした就労実態調査(パーソル総合研究所調べ)を見て、筆者の窪田氏はどのように感じたのかというと……。
ひとつの仕事に縛り付ける「国策」
では、それは何か。結論から先に言ってしまうと、筆者は当時の文部省が主導した「転職有害キャンペーン」によるところが大きいと思っている。
1927年(昭和2年)、文部省は訓令第二十号「児童生徒ノ個性尊重及職業指導ニ関スル 件」を発令して、学校教育の中に「職業指導」を初めて正式に導入した。
では、その中身はどんなものだったのかというと、徹底した「転職は悪」を唱えるものだった。この訓令と同時に設立された「大日本職業指導協会」が編さんした『職業指導読本』(1935年、富山房)が分かりやすい。ここでは「何れの場合を問はず、転職は慎むべきことである」(P.142)として、興味が失せたとか、より良い条件を求めて転職する者は以下のようにディスっている。
『まことに浅ましく又憐むべき事で、此の世の中に、何一つ眞の苦労もなしに、又努力なしに大成し得る職業の無いことを知らぬ者』『意志は薄弱となり、倦怠と不眞面目と射幸心などにはの見下げ果てたさもしい心となり、常に不熟練者として取扱はれ(中略)「愚かなる男」の例の如くになり易い』(P.143)
では、なぜ当時の文部省は、転職をここまで憎々しく叩いたのか。
実はこの訓令を出す3年前の1924年(大正13年)、文部省編の『職業指導』(社会教育協会)で、「学校を終へたる後職業変更数」というところで、米国の若者を対象に転職調査を行なっている。その結果、米国の若者は、賃金や労働条件の向上のために平均2年で3度にわたって職業を変えており、技能が身についていないと指摘して、以下のような結論に至っている。
『ただ職業が困難だ、或は疲れたとか、面倒だとか、嫌だとか虫が好かないとか、斯う云ふやうな時に察して(中略)色々とそこに慰めてやる、或は又転職の不利なことを説いてやる』(P.136)
当時はまだ「メイドインジャパン」の評判も悪く、日本は国として技術力向上に努めていた時代である。そんな中で、若者に米国のようにホイホイ転職されたらたまったものではない。そこで、ひとつの仕事に縛り付ける「国策」が取られたのである。
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