「世界一真面目な労働者は日本人」と触れ回っては、いけない理由:スピン経済の歩き方(3/5 ページ)
またしても日本の「働き方」のクレイジーさを物語る残念なデータが出てきてしまった。日本を含むアジア太平洋地域14の国・地域を対象にした就労実態調査(パーソル総合研究所調べ)を見て、筆者の窪田氏はどのように感じたのかというと……。
薄給に耐え、会社に通い続ける「社畜」
米国、英国、ドイツに留学後、日本人として初めてイェール大の講師となって、帝国大学教授などを務めた倫理学者の中島力造も、1916年(大正5年)の講演で以下のように述べている。
『今後日本人が世界の最強國人と競争して往く上に備へなければならぬ、強くしなければならぬのは忍耐持久といふ習慣であります。之がどうも吾々日本人には弱い。やり掛けたとしてもむづかしくなると直ぐに止めてしまふ、根気が弱い』(戦後の変動と国民性教育 目黒書店)
では、1920年ごろまでは、よその国の人々よりも辛抱が足らず、辛い仕事や条件の悪い会社をサクサクと辞めていた日本人労働者は、一体いつから、パワハラ・セクハラ・薄給に耐えながらも会社に通い続ける「社畜」へと変わったのか。
およそ40年後の高度経済成長期には「モーレツ社員」なんて言葉も生まれ、「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」なんて歌もできるなど、「社畜文化」が定着しているので、もう少し時計の針を戻してみると、戦時中に既にこの片鱗ができ上がっていたことが分かる。
「学徒を先頭に“翼”復仇増産 空襲の度毎に上昇する出勤率」(朝日新聞 1945年2月23日)
当時は米国のB29やらが日本上空に現れては、市街地や軍事工場を空襲した。そんな爆弾の嵐の中でも、日本人労働者は勇ましく「出勤」してモーレツに働いていたことを示す記事である。それを裏付けるのが、「大空襲の翌日、交通混乱の場合は生産関係者のみの乗車に局限し、さうでない勤人の通勤はやめさせて」(朝日新聞 1945年4月19日)という投書だ。大雪でも台風でもとにかく定時出勤をしなくては、という「社畜根性」は既に戦時中に確立されていたのだ。
以上のような流れを踏まえると、1920年〜30年代に日本人労働者のキャラクターをガラリと変えてしまう、劇的な出来事が起きたと考えるべきだろう。
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