がっかりだった自動運転バスが新たに示した“3つの答え”:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
小田急電鉄などが手掛ける自動運転バスの2回目の実証実験が行われた。1年前の前回はがっかりしたが、今回は課題に対する現実的な解決策を提示してくれた。大きなポイントは3つ。「道路設備との連携」「遠隔操作」「車掌乗務」だ。
最高速度、ブレーキ操作に課題
18年の第1回実証実験で私が感じた「自動ではない不満」について、第2回ではきっちりと解決、または解決案を見せてくれた。なるほど、自動運転はこうして進化していくわけだ。江の島は20年東京五輪のセーリング競技会場になっており、小田急グループはそこで自動運転を実用化したい考えだ。しかし現状は、理想の自動運転までの道のりはまだ遠いと感じた。
例えば、停車の動作はぎこちない。スムーズに停まるかと思ったら、最後にキュッと停まって、つんのめる感じがある。これは自動運転の安全性を高めるため、メリハリをつけてしっかり停止するようにプログラムされているからだろう。当日に試乗した神奈川県知事の黒岩祐治氏は、前回に比べて進化したと評価する一方、この停止時の挙動が気になったようだった。
私は鉄道ファンのせいか、自動車を運転するとき、街路では電車のような操作を心掛ける。少しずつマスコンのノッチを上げるように加速し、停止するときは強めにブレーキを踏んでから、少しずつ踏む力を弱めていく。こうすると電車のようにスッと停まる。信号を見て、歩行者信号の動きなどを察知して停車を判断し、停車がスムーズに決まるとうれしいし楽しい。そんな小さな達成感でドライブしている。
自動運転バスの場合、ブレーキを緩めていくという動作はリスクが大きいかもしれない。マイカーの高度運転支援システム(ADAS)でオートクルーズの渋滞区間を走らせたときも同様の挙動になる。安全を極めた後になるかもしれないけれど、乗り心地については研究の余地がありそうだ。
大きな問題が解決すれば、小さな問題が目立つ。その一つ一つを解決して自動運転は理想に近づく。18年9月は落胆しかなかった自動運転。19年8月には課題と解決の道筋を見せてくれた。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
関連記事
- 自動運転路線バス、試乗してがっかりした理由
小田急電鉄が江の島で実施した自動運転路線バスの実証実験。手動運転に切り替える場面が多く、がっかりした。しかし、小田急は自動運転に多くの課題がある現状を知ってもらおうとしたのではないか。あらためて「バス運転手の技術や気配り」の重要性も知った。 - 「びゅうプラザ終了」で困る人はいない “非実在高齢者”という幻想
JR東日本の「びゅうプラザ終了」報道で「高齢者が困る」という声が上がっている。しかし、そのほとんどが当事者による発言ではない。“非実在高齢者”像を作り上げているだけではないか。実際には、旅行商品や乗車券を手にする手段もサポートもたくさんある。 - 着工できないリニア 建設許可を出さない静岡県の「正義」
リニア中央新幹線の2027年開業を目指し、JR東海は建設工事を進めている。しかし、静岡県が「待った」をかけた形になっている。これまでの経緯や静岡県の意見書を見ると、リニアに反対しているわけではない。経済問題ではなく「環境問題」だ。 - こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。 - 新幹線と飛行機の壁 「4時間」「1万円」より深刻な「1カ月前の壁」
所要時間が4時間以内なら飛行機より新幹線が選ばれるとされる「4時間の壁」。それよりも「1万円の壁」を越えるべき、というコラムが話題になったが、新幹線の“壁”は他にもある。航空業界と比べて大きな差がある、予約開始「1カ月前」の壁だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.