がっかりだった自動運転バスが新たに示した“3つの答え”:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
小田急電鉄などが手掛ける自動運転バスの2回目の実証実験が行われた。1年前の前回はがっかりしたが、今回は課題に対する現実的な解決策を提示してくれた。大きなポイントは3つ。「道路設備との連携」「遠隔操作」「車掌乗務」だ。
気配り動作をAIがやるべきか
バスが発車するとき、運転自体は自動であったけれども、運転手さんが窓から後方確認し、手を出して後続車にアピール。ここから右側の車線に移るためだけど、それを人がやってしまったら、車の流れに沿った自動運転実験にならない気がする。この動作の代わりになる仕組みが必要だ。それは車掌の役目かもしれない。
また、車線変更後に「サンキューハザード」を出したことも気になる。これはドライバーの慣習であって、法的に認められる所作ではない。法に沿わない動作をプログラムしているはずがなく、これも運転手の気配りだろう。人間が行う気配り動作を自動運転はどこまで再現すべきか。ここも課題の1つだ。
片瀬橋を渡ると江ノ島入口交差点だ。自動運転バスはここで右折専用車線に入り待機。この交差点は前述の交差点センサーを設置している。よく見ると、こちらの道路は一直線ではなく、交差点の向こう側はやや左にカーブしており、一般ドライバーでも死角が大きい。自動運転バスは交差点の停止線で止まっていたけれども、青信号のため少しずつ前進して間合いを取り、対向車が来ない状態で安全に曲がった。これは見事だ。
江の島大橋は順調に渡り、江の島内の道を走行。歩行者や自転車が横切る場面も安全に停止。道路幅員が狭い区間は駐車車両の回避禁止となっていたけれども、回避可能区間では駐車車両のほか、駐車場待機の車両も回避できた。神奈川女性センター停留所で停車、道路終点のロータリーで転回して、湘南港桟橋に停車。
帰路も自動運転、横断歩道などで自動停止、運転手による発進操作で順調に進行。ただし、自動で左折する予定だった江ノ島入口交差点は、路肩部分で植栽整備作業があったため手動運転だった。道路工事は事前に許可が必要で、その情報が得られた場合は自動運転を設定可能だったという。今後、道路使用許可情報などの連携、交通警備員への対応なども必要だ。こうした課題の洗い出しは、取材日以外の一般試乗期間でも行われたはずで、実証実験としては成功だっただろう。
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