EVにマツダが後発で打って出る勝算:池田直渡「週刊モータージャーナル」(7/7 ページ)
マツダが打ち出したEVの考え方は、コンポーネンツを組み替えることによって、ひとつのシステムから、EV、PHV(プラグインハイブリッド)、レンジエクステンダーEV、シリーズ型ハイブリッドなどに発展できるものだ。そして試乗したプロトタイプは、「EVである」ことを特徴とするのではなく、マツダらしさを盛ったスーパーハンドリングEVだった。
「EVである」ことは既に特徴にならない
試乗時間は1時間程度と限られていたが、いつまでも乗っていたい。というか、むしろ職業柄にもなくその場で欲しくなった。
冷静に考えれば賃貸住まいで自宅に充電設備もないし、車両価格もまだ高いだろう。航続距離も限定的だ。筆者が実際に購入するのは難しいだろう。しかし重要なのは、動力源が何であれ、運転中にドライバーを魅了する何かが存在することだ。そういう意味ではロードスターの価値と極めて近い。
すでに数多あるEVにマツダが後発で打って出て、勝算があるとすれば、そういう「走り」にマツダらしいリファレンス(基準)が存在することだ。今、世界の自動車メーカーからデビューしつつあるEVは、徐々にそういうリファレンスを持つクルマになりつつある。各方面の情報を見る限りジャガーのI-PACEやポルシェのタイカンはそういうものだと思う。EVであっても、乗ればジャガーらしい、あるいはポルシェの名に恥じないEV。各社各様のリファレンスを芯に据えたEVの登場によって、ただEVであるというだけでは価値が見出せない時代に突入しつつある。
トヨタ自動車の豊田章男社長は2年前にこう発言している。「あるスポーツモデルのEVに乗ってみてほしいといわれて運転したことがある。『EVですね』という感想で、特徴を出しにくいと思った。ブランドとしての味を出すことが挑戦になっていく」
今回のマツダのプロトタイプEVは、それに対してのひとつの答えになっていると思う。乗って楽しい、スーパーなハンドリングを持つマツダらしいEVだ。
しかもコンポーネンツ化されたそれは、多様な発展系を持っている。例えば、日産のノートe-POWERのようなシリーズHV、つまり動力源はモーターのみで、これにロータリー発電機で電力を供給するモデルならば、先ほど懸念した充電などの問題があらかた解決する。なんとも期待できるではないか。
さて、明日掲載予定の続編では一体どういう仕組みでこのスーパーハンドリングEVができたのか。その詳細を解説する。実はその正体はあのGベクタリングコントロール(GVC)だったのである。
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